街角の変遷を、定期的に特定の決まった位置から写真に撮って記録にとどめる。「定点記録写真」と言われる。そのパイオニアとして知られる写真家、富岡畦草さんの最新作が本書『東京定点巡礼』(日本カメラ社)。
これまでにも類書を出しているが、本書は写真雑誌「日本カメラ」に長年連載していた写真エッセイをまとめたものだ。写真はもちろん貴重だが、文章による解説も詳しい。東京という巨大メトロポリスの、いわば写真で見る「履歴書」だ。
雑誌連載「我が写真回想記─記録する日々」は平成16年からスタート、14年かけて170回に達したのを機会に単行本にした。日々変化する東京を、都市景観の変化だけではなく人々の文化や風俗も交えて、159枚の写真と共に解説している。
たいがい、一つの場所について3枚の写真が掲載されている。一枚目は昭和20年代の末から30年代の半ばあたり。二枚目は昭和50年代ごろ、そして3枚目として平成に入ってからの写真が対比されている。
ざっと眺めてすぐに気づくのは、一枚目と二枚目の間に東京が劇的変化を遂げたということ。いわゆる高度成長が街を変えたといえる。立派なビルができ始め、高層道路が走り、人々の服装もモダンになる。
たとえば昭和34年の新宿駅西口は、まだ平屋建てのようだ。女性のスカート丈が長い。駅前には道路も信号もない。昭和50年の写真になると、駅がビルになる。行きかう女性のスカートの丈も短くなって、信号ができている。
昭和34年の新宿駅東口の飲み屋街は悲しいほどみすぼらしい。しばしば紹介されている写真だが、まだバラックが残っている。今の東口風景には痕跡すらない。
富岡さんは1926年、三重県生まれ。工業高校卒業後、中島飛行機株式会社に就職。谷田部海軍航空隊に配属され、特攻隊志願兵として終戦を迎える。戦後は日刊スポーツ新聞社を経て、人事院広報課写真室勤務となり、省庁関連の広報写真撮影のかたわら、東京を記録する作業を始めた。
『東京は変わった 定点撮影50年』(岩波フォト絵本)、『富岡畦草記録の目シリーズ 変貌する都市の記録』(白揚社)などの著書がある。
それにしても今年92歳。今も現役で撮り続けているとはスゴイ。と思ったら、巻末にうれしい報告があった。娘と孫娘があとを継いでいるというのだ。カメラを手に3人が一緒に写った写真も載っている。「富岡畦草さんの定点写真は、今や一人の富岡畦草さんによるものではない」という注釈がついている。つまりファミリーが一丸となり、撮影を続けているというのだ。
そうなると、変貌を続ける東京はまだまだこの先、「富岡畦草」によって記録され続けることになる。「畦草」というのはあぜ道の草という意味だ。つまり雑草。いわば無名の庶民の確かな目で、東京の在りし日の姿、「遺影」が記録される。タイトルの「巡礼」にはそんな意味もあるに違いない。「東京」もきっと安心して脱皮を続けることだろう。
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