91歳を迎えた写真家、富岡畦草さんは「定点撮影」による記録写真の分野を開拓し、街の変わりゆく姿をとらえてきた。本書は畦草さんを引き継いだ2代目の娘、三智子さんと、3代目となる孫で三智子さんの娘、鵜澤碧美(うざわ・たまみ)さんの定点撮影の成果を合わせて収めた六十余年にわたる集大成。昭和20~30年代から同50年代、そして平成の現代と時代をまたぎ、銀座や日本橋など東京都内を中心に66の街をめぐり時間旅行が楽しめる。
東京駅からみて丸ビル(丸の内ビルディング)の向こう側にあり、日比谷の方に向かう「丸の内仲通り」は、丸ビルが建て替えられた(2002年)のと前後して開発が進み、セレクトショップやブランドの路面店が並ぶようになった。それまでのオフィス街オンリーから、散策を楽しめる街路に趣きを変え、観光客も数多く訪れる。
本書によると、このオフィス街はかつて「一丁倫敦(ロンドン)」の名で当時のビジネスマンらに親しまれ「サラリーマン憧れの地として東京のイメージを形作ってきた」という。1954年(昭和29年)に撮影されたという写真には、レンガの建物が並び、道路の両脇には当時の独特のフォルムの乗用車が駐車の列を作っている。西洋式の最先端オフィス街を想定して設計を英国人建築家に一任し、同国風の建物群の一角が誕生。「ロンドン」の名がつけられたという。
渋谷駅前の「スクランブル交差点」の見開きページには、1958年(昭和33年)、1980年(同55年)、2016年(平成28年)の3枚が並ぶ。いまでは、東京の"名所"の一つに数えられるが、1958年の写真では「センター街」は普通の路地のようだ。
評者の評論家、川本三郎さんは「ノスタルジーとは過去を懐かしむと同時に、失った痛みを自覚することだ。東京の町は実に多くの建物を失いながら、新しく作り変え発展していった。多くの痛みの上にいまの東京がある」と述べている。
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