「観応の擾乱」って知ってました? 今年前半の歴史書のベストセラーとなった『応仁の乱』(中公新書、呉座勇一)は、有名だけど、何がどうなっているのか一般にはわかりにくかった「応仁の乱」を整理してみせて、よく売れた本である。同じ室町時代でも「観応の擾乱」は、将軍足利尊氏とその弟である直義がたたかった全国的な内乱である。でも相当マイナー。著者は「この乱のイメージは基本的に悪い」とし、初期の室町幕府にとってもっとも重大な戦争だったにもかかわらず、「学術研究の世界においても、観応の擾乱が軽視されてきた」と憂う。
にもかかわらず、本書がベストセラーになっている理由は、書店に行けばわかる。同じ中公新書である二冊は仲良く平台に並んで売られているからだ。室町時代の始まりが『観応の擾乱』、終わりが『応仁の乱』と考えれば、乱暴だけどわかりやすい。
評者の永江朗氏(評論家)は「第1幕は直義派の圧勝。そこで尊氏は敗因を正確に分析したと著者は推測する。恩賞が十分でなかったから武士たちは直義派に寝返ったのだ、と。部下はちゃんと分け前をくれるボスについていく。この反省の元に戦った尊氏は第2幕に勝利。これを教訓に、室町幕府は『努力が報われる政権』を目指す」とわかりやすく要約している。
今年は『足利尊氏』(角川選書、森茂暁)が出て、逆賊のイメージが強かった尊氏像の書き換えが進んだ。新史料の読み込みがそうした作業を支えた。
二人の兄弟につかえた執事の高師直は、「日本史上屈指の大悪人であるとする史観」は、「ほぼすべて『太平記』に史料的根拠」があると著者は指摘する。本書を読むと、「大悪人」の印象はまったく感じられない。中世史はいま新たな研究成果のもと、興味深い展開を見せている。ベストセラーが生まれるのも理解できる。
著者は若い中世史の研究者。京都大文学部非常勤講師を経て、国立台湾大学日本語文学系助理教授。
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