本書『純喫茶「一服堂」の四季』は、『謎解きはディナーのあとで』(小学館)で2011年本屋大賞を受賞した東川篤哉による、喫茶店を舞台にしたユーモアミステリー。2014年に講談社より単行本として刊行され、17年に文庫化された。
タイトルの「四季」が表すとおり、春夏秋冬4つの事件が起きる。密室で十字架に磔にされた大学教授「第一話 春の十字架」。農家の納屋で首に蛇が巻き付き磔にされた地主「第二話 もっとも猟奇的な夏」。浴室で頭と両手首のない状態にされた作家のアシスタント「第三話 切りとられた死体の秋」。完全に施錠された家屋で惨殺された兄弟「最終話 バラバラ死体と密室の冬」。
鎌倉にひっそりと佇む喫茶店「一服堂」の美人店主・ヨリ子は、客が入店したのを察知した途端に赤面し、どもり、注文を取るための心の準備にかかる。極度の人見知りでアガリ症で接客が苦手でも、オーナーとして客の前に立ち続ける。だが、未解決事件の話を聞けば態度が豹変し、並外れた推理力で4つの事件の謎に迫っていく。
雑誌記者、独身女、売れない作家、女刑事がヨリ子のもとに事件を持ち込み、彼女の前で事件の真相解明を試みる。ところが、彼らの推理を傍らで聞いていたヨリ子は突然、ガチャン!とカップを割り、客を睨みつけ――
「甘いですわね!まるで『一服堂』のブレンド珈琲のように甘すぎますわ。もう少し苦みの利いた推理をお聞きしたかったのですが、わたくし、すっかり失望いたしました!」と、客の推理と自ら淹れた珈琲の味に毒舌を吐く。「安楽椅子」と書いて「アンラクヨリコ」と読ませる彼女の名探偵ぶりが、そこから発揮される。
何と言っても、メイド姿をした美しいヨリ子の豹変ぶりが強烈。キャラの設定、会話のやりとり、トリックの斬新さ(特に最終話)と言い、サクサクとテンポよく、飽きることなく楽しませてくれる。事件の被害者の描写は凄惨であるにもかかわらず、笑えるポイントが散りばめられている。
著者の東川篤哉は、1968年広島県生まれ。2002年カッパ・ノベルズの新人発掘プロジェクト「KAPPA-ONE登龍門」で第一弾として選ばれた『密室の鍵貸します』(光文社)で本格デビュー。『謎解きはディナーのあとで』は大ヒットとなり、櫻井翔・北川景子主演で連続ドラマ化・映画化された。作中に登場する「お嬢様の目は節穴でございますか?」「お嬢様はアホでいらっしゃいますか?」のセリフが印象深い。他に「烏賊川市」(光文社)、「鯉ヶ窪学園探偵部」(実業之日本社、文庫は光文社と実業之日本社)、「魔法使いマリィ」(文藝春秋)、「平塚おんな探偵の事件簿」(祥伝社)各シリーズなど、著書多数。
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