うまい儲け話の本ではない。『お金が増える不思議なお金の話』(方丈社)。サブタイトルがコンセプトを表している。「ケチらないで暮らすと、なぜか豊かになる20のこと」をつづったエッセイ集だ。「安物買いの銭失い」的な、昭和~平成にかけての著者の経験などが軽妙に語られており、思わず「あったあった」「あるある」とうなずきながら楽しめる。
夏休みに旅行を計画している人も多いだろう。手配はまだという人たちは、本書のイタリア旅行についてのパートは参考になるかもしれない。あなたがコスパ重視ならなおさらだ。
激安パックで6泊8日のイタリア旅行に出かけた著者の経験談。ツアーメイトがこう話しかけてきた。「本場まできたのに料理が大しておいしくなかった」。この人は、ツアーで用意された食事しかしなかったらしいのだが、著者によれば、激安ツアーの上げ膳据え膳のサービスで本場ものを期待する方が間違いという。同じ「激安」でイタリア料理を味わおうとするなら、日本のチェーンレストラン「サイゼリヤ」の方が「何十倍もおいしい」とまでいう。
著者は米金融機関勤務のほかテレビ番組の経済もののレポーターや放送作家としても活躍。経済評論家として知られるが、旅行やレジャーについての著作もあり、本書ではワインや食についてもエッセイを書いている。
激安パック旅行などについても詳しく、イタリア旅行のパートでは激安パックの限界について説明。その仕組みのなかで、どうやって本場の味を楽しむかについても触れている。こうしたツアーでは、たいしておいしくない食事のために、日本で慣れているファストフード店を利用したり、カップめんを持ちこむ客が少なくないのが実情とも。やりようによってはトクできるところを棒にふっていると著者はいう。
1960年代後半の小学校2年生まで大阪・堺の団地で暮らしたという著者。団地のなかには商店街があり、1年生になると母親からもらった10円玉を握って、その中の店にタコ焼きを買いに行くようになった。店は2軒あり、おたがい目と鼻の先。1軒は3個10円、もう1軒は4個10円だった。行きつけはもちろん後者だったが、休みのときに仕方なく3個10円を購入した。
当時、著者は、なんですべての人が4個10円を買わないのか不思議だったが、そのわけがわかった気がしたという。一つひとつがずっしりと大きく、なかのタコも大きかった。
子どものころにこうしたことを経験した人は多いのではなかろうか。大人はなぜ、高い方を買うのだろうかと考えたこと。のちのち、その理由がわかって、ちょっと気分がいいときにはわざと高い方に手を出して、プチ満足感を味わったりすること...。本書にならべられたエッセイは、激安ツアーも利用次第で...、とか、あまり知られていないICカードの「バス特」でのポイントの稼ぎ方など、読み方によっては、シワい感じもないではないが、心が「トクする」ほのぼのさも随所の配されている。
ほかに、昭和の時代、ダイヤル式黒電話でフックを操作すると電話代がタダになると信じられた都市伝説や、節約術としてもてはやされた金券利用、DVDなどがなかった時代のロードショー館と二番館、名画座を使い分けた映画の楽しみ方など、昭和あるあるのネタが豊富に盛り込まれており、著者と同時代あるいはそれ以前の世代の読者はもちろん、平成世代にも時間旅行的に楽しめるのではないか。
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