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運命を変えた、カメラマンと心を病む少女の出会い

ぼくときみの半径にだけ届く魔法

 本書『ぼくときみの半径にだけ届く魔法』(幻冬舎、2018年)は、『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』の著者・七月隆文が贈るラブストーリー。

 売れない若手カメラマンの須和仁(じん)は、高級住宅街を歩きながらシャッターを切っていた。中でもひときわ目立つ豪邸の印象的な窓に目が留まり、シャッターを切ろうとした瞬間、カーテンが開かれた。窓辺に立つ美しい少女を一目見た時、「お姫様」の単語が浮かんだ。

 撮った写真の公開許可を得ようと、仁はインターホンを鳴らした。使用人に通された先にいたのは、幸村陽(はる)という少女。心の病で家から出られない陽は、白い部屋の壁に風景の写真を映して眺める日々を送っていた。「須和さんの目を通した世界を、もっと見せて頂けませんか」と陽から依頼を受け、仁は様々な写真を撮って届けるようになる。

 それは、仁と陽の人生が奇跡のように変わり始めた瞬間だった――。

 陽の写真を撮ることで自信が生まれた仁は、多方面から仕事を得るようになる。仁の写真が変わったのは、「陽のために」と思いながら撮り始めてからだと気づく。一方の陽は、仁の役に立てたことを嬉しく思うと同時に、可愛いと評価されたことを嬉しく思う自分を卑しいと思い、悩む。陽の「めんどくさい」ところを含めて、繊細で、人に気を遣って、笑みを見せようと口の端に窪みができるのもすべて、仁は魅力に感じている。

 気持ちが通い合った2人は恋人同士となり、2年が経過した。陽の病は心に起因するもので、それが解決できれば治るかもしれないという希望が生まれていた。陽の両親と妹は、陽の病から解放されるために別々に暮らしている。仁は、陽の病には、家族との関係が大きく関わっていると考え、陽の家族に接触し、陽と家族に欠けているのは何かを気づかせる。

 須和仁というカメラマンが、どんな思いを抱いて売れない時代を過ごし、自分の写真に決定的な影響を与えた陽とどう過ごしていったのか。一生ベッドの上で過ごすと思っていた陽は、仁と出会い、自分の心とどう向き合っていったのか。美しい写真を眺めるようにスラスラと読み進め、読後感は温かく、清々しいものがある。

 著者は、『Astral』(KADOKAWA)でデビュー。『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』(宝島社)はミリオンセラーとなり、2016年に映画化された。他の著書に『君にさよならを言わない』(宝島社)、『ケーキ王子の名推理』(新潮社)、『天使は奇跡を希う』(文藝春秋)など。本書が初の単行本作品となる。


BOOKウォッチ編集部 Yukako)
  • 書名 ぼくときみの半径にだけ届く魔法
  • 監修・編集・著者名七月 隆文 著
  • 出版社名株式会社幻冬舎
  • 出版年月日2018年4月 5日
  • 定価本体1200円+税
  • 判型・ページ数四六判・362ページ
  • ISBN9784344032767
 

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