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世界は行かなきゃ、わからない!

世界まちかど地政学

 著者の藻谷浩介さんが日本政策投資銀行に在籍していた頃、ある県の地域振興をテーマにした講演を聞いたことがある。詳細な統計データと足で歩いて得た見聞をもとにした鋭い分析と提言に圧倒された。それらは『デフレの正体』や『里山資本主義』といった著書の主張につながっていた。国内は平成大合併前の約3200市町村すべてに行ったという。そんな藻谷さんが海外に足を延ばしたというから注目せざるを得ない。「自腹・単身・予習なし」という条件でこれまでに90カ国を回ったそうだ。その成果として、毎日新聞のインターネットサイト「経済プレミア」に旅行記「藻谷浩介の世界『来た・見た・考えた』」を連載。本書『世界まちかど地政学』(毎日新聞出版)は、2017年掲載分14カ国について本にしたものだ。

 副題に「弾丸旅行記」とあるように、日帰りや1泊で行った国もある。それでも一度も行かないとではまったく違うという。「成田空港で国際線から国際線に乗り換えた際に、二時間だけ入国して成田山新勝寺に立ち寄った外国人が、それだけの経験から日本を語る」というような覚悟と気合で読み取っているというから、すごい真剣勝負だ。

 14カ国どこから読んでもいいようになっているが、第1章、バルト海の港町・カリーニングラードが印象深い。プロイセン王国建国の地で、もとはドイツのケーニヒスベルクだった。旧ソ連が第二次大戦時にドイツから「戦利品」として奪い取り、現在はロシア共和国の飛び地としてEU諸国の中に孤立している。いわばドイツの「北方領土」だと藻谷さんは書く。「東の果ての小さな島々を譲ることが、西の端の重要な軍港の帰趨を巡る議論を惹起しかねない」というロシアの立場を知らなければ、北方領土返還について語ることはできないと指摘する。

 旧ソ連・コーカサス3カ国など各国についての記述の最後に、「二十一世紀の『ソフトパワーの地政学』」とは」と題した自著解説があり、軍事(ハードパワー)以上に、経済力、技術力、文化力などのソフトパワーの地政学であるべきだと訴える。日本の等身大の実力は相当なものだという評価にほっとした。

 そうした堅い話のほかにも台湾・韓国・中国の高速鉄道乗り比べ、といった楽しい読み物もあり、地理好き、旅行好きの著者の一面もうかがえる。  

  • 書名 世界まちかど地政学
  • サブタイトル90カ国弾丸旅行記
  • 監修・編集・著者名藻谷浩介 著
  • 出版社名毎日新聞出版
  • 出版年月日2018年2月28日
  • 定価本体1100円+税
  • 判型・ページ数四六判・271ページ
  • ISBN9784620324999
 

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