「ねぇ、高坂さんは、こんな風に考えたことはない?自分はこのまま、誰と愛し合うこともなく死んでいくんじゃないか。自分が死んだとき、涙を流してくれる人間は一人もいないんじゃないか」
本書『恋する寄生虫』(株式会社KADOKAWA、2016年)は、「虫」によってもたらされた、臆病者たちの恋の物語。高坂賢吾は、27歳の冬に遅すぎる初恋をした。相手は一回り近く年下の佐薙ひじり。佐薙は不登校で、金髪にピアスをしている。重度の潔癖症で失業中の高坂と、虫を愛する佐薙は、唯一心を許せる相手に、紛れもない恋をした。
社会不適合者を自認する高坂は、コンピューターウイルス作りを秘かな生き甲斐にしている。ある夜、和泉と名乗る男が現れ、犯罪行為を告発されたくなければ、「佐薙ひじりと友達になることだ」と脅迫される。高坂と佐薙は男の指示どおりに出会い、高坂の部屋へ佐薙が時々来る関係になる。
ある時、佐薙は自分が視線恐怖症だと告白する。そこから高坂は潔癖症を、佐薙は視線恐怖症を克服しようと、互いに好影響を与え合う関係になる。しかし、2人の幸福な時間が長くは続かないことを、高坂は確信していた。
「あんたの頭の中には、新種の寄生虫が住み着いている。社会に適応できないのは、その『虫』のせい。佐薙への感情は『虫』によって作り出されたもの」という衝撃の事実を、高坂は和泉から知らされる。高坂と佐薙の恋は、「虫」がもたらした錯覚だったのか?「虫」がいなくなれば、何も感じなくなるのか?
精神的な欠陥を抱える2人が、年齢も境遇も越えて、なぜか惹かれ合う。しかしそれは、本人の意志と関係なく別の力が作用していたから、という意外な展開を見せる。捉えづらい高坂と佐薙の内面を、丁寧に描写している。言葉が流れるように入ってきて、読んでいて心地良い。
著者の三秋縋(みあきすがる)は、1990年生まれ。岩手県出身。ウェブ上で「げんふうけい」名義の小説も発表し、人気を博している。他に『スターティング・オーヴァー』『三日間の幸福』『いたいのいたいの、とんでゆけ』『君が電話をかけていた場所』『僕が電話をかけていた場所』(全て、メディアワークス文庫)がある。
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