ネットで噂になっていた本書『出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと』(河出書房新社)をたまたま入手し、ぱらぱら読み始めたとたん止められなくなり、他の仕事を放り投げ、読了するまで読み続けてしまった。
著者の花田菜々子さんは、どんなアブナイ人かと思っていたら、出会い系サイトを始めた頃は、書籍と雑貨の店「ヴィレッジヴァンガード」の店長さん。結婚生活が破綻し、仕事にも疑問を感じはじめた時に、「X」という出会い系サイトを偶然知ったという。家を飛び出し、スーツケースで会社に行き、夜は簡易宿泊所、スーパー銭湯、カプセルホテルを泊まり歩くという崖っぷち生活。
ここは恋愛相手を探すだけでなく汎用性のあるマッチングサイトで、プロフィールに「セクシー書店員 1万冊を超える膨大な記憶データの中から、今のあなたにぴったりな本を1冊選んでおすすめさせていただきます」と書きこんだところ、次々に出会いがあった。
一生懸命考えて、なんだかんだセックスの話に持ち込もうとする自称広告マンには樋口毅宏の『日本のセックス』を、起業を考える暑苦しい30代には大宮エリーの『思いを伝えるということ展のすべて』を勧めたが、結局彼らは「女とセックスできるかもしれないという価値観だけが一人歩きしているに過ぎなかったのだ」と気づく。
無料でコーチングをするユカリさんやいつもさわやかでやがて友人となる映像作家の遠藤さんらとのいい出会いもあったが、花田さんが登場するオリジナルのポルノ小説を送りつけ、添削を求めるようなとんでもない男もいた。
やがて「X」を通じて横浜の共同利用スペース、コワーキングスペースに出入りするようになり、人間関係はどんどん広がって行った。また「X」を通じなくても自分で会いたい人には連絡をして会いに行くという積極性も身に着けた。そして「X」へのショートカットをスマホのホーム画面から削除する。
1年間を綴ったウェブ連載を元に本にしたものだが、この途中に転職あり、離婚あり、引っ越しありのすごい1年だったことがわかる。だが、結局は「本」が花田さんの人生を好転させたようだ。その後、花田さんは書店をいくつか移り、3月からは東京・日比谷シャンテにオープンした「HMV&BOOKS HIBIYA COTTAGE」の店長を務める。
花田さんの実録私小説として楽しめるが、「この人物にはこの本を」と読者が想像するのも面白い(冒頭の1冊は評者と花田さんの見立てが一致していた)。本好きにはたまらない1冊だ。「読めば勇気が湧いてくる」と崖っぷち系女子の支持も厚く、発売1週間で重版となった。
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