本書『オールカラー 地図と写真でよくわかる! 古事記』(西東社)はビジュアルを重視して古事記を解説した本だ。活字本で読んでも、頭には入りにくい古事記の内容をわかりやすく説明している。
本書を別な角度から見ると、古事記にゆかりの場所を案内する観光ガイドブックにもなっている。
本書はまず、49ページから始まる「古事記とは」から読み始めるといいだろう。「古事記」は712年、「日本書紀」は720年の成立。「古事記」の方が神話時代の物語が豊富で、「日本書紀」は少ない、など両書の違いを端的に記す。「古事記」は文学的な色彩が濃厚なのにたいし、「日本書紀」は日本の正史として年代を追って書く編年体。中国や朝鮮の歴史書の内容も参照されている。「古事記」は漢字の音・訓を使い分け、和文で表現しようとしているが、「日本書紀」は漢文なので、中国の人が読んでも理解できる...。
面白いのは、こうした漢字表記の違いなどをもとに「古事記」は国内向け、「日本書紀」は対外向けと解説しているところだ。「古事記」は天皇家が統治する根拠と正統性を示すために、国譲り、天孫降臨などの神話に力を注いだとしており、このあたりは「国内向け」と言う話と符合する。「日本書紀」は遣唐使が中国に持参したという話もあるそうだ。
現実の権力基盤が確立されると、神話満載の「古事記」はもはや余り重要でなくなったのかもしれない。次第に大事にされなくなり、一時は偽書とされ埋もれていた。評価が復活したのは本居宣長の「古事記伝」からというのは有名な話だ。
戦前、皇国史観で各種の神話が過剰に強調された反動で、戦後は冷遇されていたが、90年ごろから再び脚光を浴びるようになる。時を経て、客観的な扱いが可能になったということだろう。左翼系とされていた学者や文化人も、忌憚なく「古事記」について語り、著書を出すようになった。
本書が楽しいのは、写真、イラスト、絵画、平面・立体地図などを駆使して神話の舞台を巡っていることだ。物語の概要が理解できるだけでなく、行ってみようかなと思える。観光ガイドのゆえんだ。黄泉の国への入り口としては、島根や広島の3か所の候補地が現在の写真とともに紹介されている。
名前は知っていても、読んだ人は非常に少ない「古事記」。奇想天外な物語が満載で、古代版のファンタジーノベルのような一面もある。神の嘆きや復讐、人間の愛情や哀切も多数の歌と共に描かれ、最近では漫画化もされている。類書は少なくないが、本書は文庫本並みに安いのでおトクだ。著者の山本明さんは多数の歴史関連書を執筆している。
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