壮大なタイトルの本だ。『歴史と戦争』 (幻冬舎新書)。著者は半藤一利さん。歴史関係の多数の著作で知られる。
本書は珍しい構成になっている。半藤さんの過去の膨大な著作から、エッセンスを抜きだし、年代記風にまとめ直しているのだ。もちろん実際の作業は編集者。したがって編集者編といえる。
第一章は「幕末・維新・明治をながめて」。そこに「もし勝海舟なかりせば」「西郷隆盛をどう見るか」「明治維新、あれはやっぱり」などの小見出しが並ぶ。
西郷についてはこんな感じだ。
「西郷さんのことを理解するには、彼を毛沢東だと思えばいい。と、私はつねづね言っているんです。両者にはけっこう共通点があるんですよ」。これは菅原文太さんとの対談『仁義なき幕末維新』でしゃべった言葉だ。
「明治維新」については、「あれはやっぱり暴力革命でしかありません。その革命運動の名残が、明治十年の西南戦争までつづいたというわけです」。これは著書『歴史に「何を」学ぶのか』からの抽出。
「日清戦争に異を唱えた勝海舟」というのも出て来る。「猛反対していたのが勝海舟」と強調し、「こういう余計な戦争をして突っ込んでいくと、かえって朝鮮半島が他の国の餌食になる」という勝の言葉をひいている。これは秦郁彦さんらとの対談本から。
「新聞は『沈黙を余儀なくされた』わけでなく」「金輪際許せないこと」「東京裁判を見に行った」などの小見出しが200ほど次々と出てくる。気になる小見出しを拾って読めばよい。半藤先生の歴史語録の体裁となっている。編集者から過去の著作をもとに再構成する企画を持ちかけられたときは驚いたそうだ。もう88歳なので、そんな体力も余裕もないと断ったら、編集者がやるのでという。それでゴーサインとなったそうだ。
ネットを見ると、誤植があるという読者の指摘があった。ネットのコメントにはこの類が多い。何か小さなミスを見つけて鬼の首を取ったように勢いづく。実際のところ、本の紹介をしていると、誤植やミスは付き物なので驚かない。「徳川15代将軍」の名が間違っていたり、1928年の張作霖事件と31年の柳条湖事件がごっちゃになっていたり。いずれも歴史学者の本だ。最近も、ある新書でのまえがきの一行目にいきなり誤字があった。これらは、大半の誤植は見つけて修正したが、ごく一部を見落とした、ということにすぎないのだと思う。気が付いたときは製本が始まっていた、ということもあるだろう。バタバタしながら作っているので仕方がないのだ。
そういえば評者も中学生のころ、英語の新刊辞書でミスを発見、意気揚々と出版社に葉書を出したことを思い出す。「すでに何人もから御指摘あり」との返事をもらい、ちょっとガッカリした。
広辞苑でも「鬼の首」騒動があったが、大事なのは核心部分だろう。半藤さんは「あとがき」で書いている。
「私を含めて戦時下に生を受けた日本人はだれもが一生をフィクションの中で生きてきたといえるのではなかろうか。万世一系の天皇は神であり、日本民族は世界一優秀であり...日本軍は無敵であり...そんな日本をもう一度つくってはいけない。それが本書の結論、といまはそう考えている」
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