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銭湯で考えた、「私たちはどう生きるか」

メゾン刻の湯

 『めぞん一刻』といえば、高橋留美子によるラブコメディ漫画。「一刻館」という名の古いアパートを舞台にした人間模様を描く。

 本書『メゾン刻の湯』は似たタイトルだが、ライターでエッセイスト小野美由紀さんの初の小説だ。こちらは「刻(とき)の湯」という銭湯を舞台にした青春群像を描いている。

はみだし人間たちが主人公

 どうしても就職活動をする気になれず、内定のないまま卒業式を迎えたマヒコ。住むところも危うくなりかけたところを、東京の下町にある築100年の銭湯「刻(とき)の湯」に住もうと幼馴染の蝶子に誘われ、居候になる。そこにはマヒコに負けず劣らず社会からはみ出した、くせものばかりがいて――というのが、物語の前置きだ。

 著者の小野さんは1985年生まれ。慶応大学出身だが、卒業時は主人公と同じく無職だったという。2011年、震災を描いた絵本『ひかりのりゅう』発売のためクラウドファンディングを立ち上げ、14年に出版。ほかにも『傷口から人生。』(幻冬舎文庫)、『人生に疲れたらスペイン巡礼』(光文社新書)がある。

 小野さん自身、家賃4万5000円・風呂なしアパートに住み、銭湯に通っていたことがあるそうだ。様々な人が暮らすシェアハウスに住んでいた時期もある。そうした実体験が、「築100年の銭湯」を舞台にした物語に投影されている。

自分探しの旅に一区切り

 「協調性は生きていくための道具であり、人によってはそれを使って世の中をうまく渡っていけるけど、なくたってかまわない。後から身につけることもできるんだから」

 「僕が欲しいのは、他人を叩きのめす力ではない。異質な物と、つながりを持てなくても、理解しあうことはできなくても、寄り添うことをやめないだけの足腰の強さと、感応できるだけの優しさだ」

 人生に迷い、居場所を探そうとする人々の呟き。あるいは人生の先達からのひとこと。軽快な話運びの中で時折、哲学的な思索に満ちた様な言葉が飛び出す。『君たちはどう生きるか』が大ブームになっているが、本書にもそういう要素がある。『君たち・・・』が著者の吉野源三郎さん自身の実体験を踏まえたものだったのと同じように、本書もまた、小野さんの人生体験に基づくものなのだろう。

 実際、小野さんは前著『傷口から人生。』で赤裸々に過去をさらしている。自傷&不登校、大学に馴染めず仮面浪人、大企業の面接でパニック障害になって就活を断念、スペイン巡礼の旅・・・。自分探しの回り道した旅は、本書『メゾン刻の湯』を通して、小説という形で客体化することで、一区切りついたのではないか。ネットの評価は星5つが並び好評のようだ。

  • 書名 メゾン刻の湯
  • 監修・編集・著者名小野美由紀 著
  • 出版社名ポプラ社
  • 出版年月日2018年2月 9日
  • 定価本体1500円+税
  • 判型・ページ数B6判・276ページ
  • ISBN9784591156841

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