読むべき本、見逃していない?

育英会の「特別貸与」が懐かしい

奨学金 借りるとき返すときに読む本

 春は受験や卒業の季節。というわけでタイムリーな本である。入学すると、奨学金のお世話になる。卒業すると、返済が始まる。

 本書『奨学金 借りるとき返すときに読む本』(弘文堂)は2018年1月30日刊。多くの若者にとって身近な奨学金問題のわかりやすい手引きだ。

月間12万円まで借りられるが...

 どれくらい身近な人がいるかというと、日本学生支援機構の奨学金は年間予算が約1兆1000億円。毎年約45万人の大学生が利用を始める。大学院まで含めると約350万人の学生のうち約130万人、実に2.6人に1人が利用しているという。

 支援機構の貸与奨学金は、第二種を4年間借りると卒業時の総額は576万円。これを20年間で返すと、超低金利1%で計算しても毎月2万6000円。大企業にでも就職すればボーナスなどで短期に返せるかもしれないが、そうでないと大変なことになる。「借りるはヨイヨイ、返すがコワイ」というのが奨学金だ。

 本書は借り方のノウハウ、返す時の注意など、奨学金のAからZまでを平易な文章で説明している。相談例も豊富だ。これから奨学金のお世話になる人や親、先々返すことになる人はあらかじめ読んでおいたほうがいいだろう。

 著者の「埼玉奨学金問題ネットワーク」は大学・高校の教員、弁護士、司法書士などの関係者が奨学金についての相談に乗り、対応している組織だ。地域的な名前だが、全国的に活動している。この問題についての専門家集団として知られている。こうした団体などの活動もあって、政府も奨学金問題について改善に動き出し、「給付型奨学金」も始まったが、住民税非課税世帯が軸になるなど条件は非常に厳しい。

「特別貸与」はなぜなくなった?

 日本の奨学金が抱える多様な問題については、『奨学金が日本を滅ぼす』などでも取り上げられてきた。著者で奨学金研究の第一人者、大内裕和・中京大教授が詳細に分析しているが、この問題については、認識の「世代間ギャップ」が激しいことを指摘していた。

 たしかに、かつては大学の授業料はさほど高くなかった。国立大学は年間1万2000円という時代が続いていたし、私立有名大でも「授業料が安い」ことで知られる庶民大学がいくつもあった。国立大は二期校制で、セカンドチャレンジも可能だった。

 当時の育英会奨学金には「一般貸与」のほかに、「特別貸与」制度があった。毎月8000円貸与されるが、返済義務は3000円のみ。5000円分は実質給付。育英会受給者の半数を占めていた。大学寮なら寮費、食費、書籍代を含めて生活費2万円で暮らせ時代だ。

 かつて学生運動が盛んだった時代は、国立でも私立でも授業料値上げは大変な反対運動に直面することになり、簡単にはできなかった。それが全共闘運動後の70年代から、あらゆる物価とは比較にならないテンポで急上昇。「特別貸与」の奨学金も84年で消えた。何かと批判されることが多い過去の学生運動だが、その退潮が、今日の奨学金問題に大きな影を落としている。

BOOKウォッチ編集部
  • 書名 奨学金 借りるとき返すときに読む本
  • 監修・編集・著者名埼玉奨学金問題ネットワーク(著)、柴田武男、鴨田譲(編)
  • 出版社名弘文堂
  • 出版年月日2018年1月18日
  • 定価本体1600円+税
  • 判型・ページ数B6判・216ページ
  • ISBN9784335551888

オンライン書店で詳しく見る(購入もできます)

デイリーBOOKウォッチの一覧

一覧をみる

アクセスランキング

DAILY
WEEKLY
もっと見る

当サイトご覧の皆様!

おすすめの本を教えてください。
本のリクエスト承ります!

出版社の皆様!

御社の書籍も、
BOOKウォッチに
掲載してみませんか?