普通の書店では見かけないが、「知る人ぞ知る」という本がある。たいがい特定の業務に関する専門的な本だ。本書『警察官のための充実・犯罪事実記載例―刑法犯〔第4版〕』(小川賢一著、立花書房)もそのひとつだろう。
タイトルにあるように、警察官が送致書に犯罪事実を的確に記載するための手引書だ。2017年末に最新版が出た。立花書房の本は、全国25万人あまりの警察官にとってはおなじみだ。警察内の売店とか、政府刊行物の販売センターのようなところで売られているはずだ。
世の中では毎日多数の犯罪が発生している。新聞やテレビで報道される事件は特に目立ったものだけ。昨年の1年間に全国の警察が認知した刑法犯は約91万件。近年かなり減り気味だが、その一つ一つを処理するのが警察官だ。
本書では411の事例をもとに、犯罪事実の記載に当たり留意すべき点や捜査上のポイント、法律上の問題点、さらには参考判例などが記載されている。前回の第3版から5年たち、その間に法改正があったことを受けて改訂されたものだ。特に17年に110年ぶりとなる性犯罪規定の改正が行われたことが大きいという。
これまで被害者を女性に限っていた「強姦罪」や「準強姦罪」。改正では男性も対象に含める「強制性交等罪」「準強制性交等罪」に名称が変更された。法定刑の下限は引き上げられ、親告罪の規定は削除された。
こうした改正に本書はどう対応しているのか。そこで該当する「わいせつ、強制性交等」という項目を眺めてみると、確かになかなか詳しい。様々な犯罪事例が列挙されている。ふつうに知られている性犯罪以外に、改正に対応して、ここではちょっと書くのをはばかるような特異ケースも散見される。男性も被害対象になったことが大きいようだ。世の中にはおかしなことをして捕まる変質者が少なくないことを知る。
初体験の事案についても警察官は事情を聞き、捜査し、報告書を作るのだから大変だ。これまでのパターン化された性犯罪以外にも、改正でいろいろと特異な事例も対象になったということを知っておく必要がある。
警察官は、法執行者として、あらゆる法令違反を取り締まる立場だ。したがって法律を熟知していないと、仕事にならない。知識があやふやだと実務で困るだけではない。なによりも昇進試験に受からないし、出世もできない。一般企業よりはるかに厳しい世界だ。だから法律の改正や新しい犯罪例の知識も必須。本書では「殺人予備」の項目で「サリン生成用化学プラントの事例」なども取り上げられている。
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