自分の実家の宗教を知らない人が少なくない。法事の時ぐらいしか縁がなく、お寺が何宗か、などということについて関心がない人が増えているからだろう。
ただ日本では、檀家制度もあって仏教系ならお寺とは無縁ではない。なかでもダントツに数が多いといわれるのが浄土真宗だ。本書『浄土真宗はなぜ日本でいちばん多いのか』は、そうした素朴な疑問をタイトルにしている。
本書によれば、浄土真宗本願寺派(いわゆる西本願寺)と、真宗大谷派(いわゆる東本願寺)を合わせると門徒の数は1200万人を超える。こうした数字は、いわば公式発表なので、各宗派を積算すると、日本人の人口を超えてしまうという話を聞いたことがあるが、真宗各派のお寺は全国に約2万。日本中のお寺の26%を占めている。真宗系が他宗派を圧していることは間違いない。
京都駅を出て少し北に歩くと、巨大な寺院が見えてくる。東に浄土真宗の東本願寺、西に西本願寺。周囲をぐるっと歩くと、それぞれ1キロ以上はあるのではないか。地方の小寺しか知らない人が初めて見ると、腰を抜かしてしまう。
東本願寺には世界最大の木造建築とされる「御影堂」がある。西本願寺には国宝の建造物がひしめく。仏教各宗派の本山が多い京都でも、とびぬけた威容を誇っている。「浄土真宗がスゴい」ということを、改めて実感できる場だ。
東本願寺には、寺堂再建時に使われた「毛綱」が展示されている。女性の髪の毛と麻を撚り合わせて編まれた強い綱だ。資材の運搬時に引き綱とされた。長さ69m、太さ約30cm、重さ約375kg。新潟の門徒から寄進されたものだというが、いったい何人分の頭髪だろう。多くの門徒の思いが結実したものに違いない。
よく知られているように、親鸞を開祖とする浄土真宗は、当初は小さなもので、8代目の蓮如の時に組織が拡大したといわれている。発展した理由について著者は、人口の多数を占める庶民を対象とした宗教だったこと、具体的な救済手段として、「南無阿弥陀仏」という念仏を唱えることで極楽浄土に結びつくこと、阿弥陀仏に頼ると成仏できるとする「他力本願」という教えがシンプルなことなどを挙げる。そのほか「節談説教」など、いくつもの「大衆向け」のわかりやすい教化手段があり、門徒拡大につながった。
また、僧侶の妻帯が認められていたことも大きいとする。お寺が子孫に継承されたし、有力者との婚姻関係を通じて、武家や公家の社会とも関係を深めることができた。さらに本願寺と門徒のネットワークも整備され、「教団が民衆から集めた金で権勢を誇る」という今日の新宗教の先鞭をつけるようなシステムも早々とつくりあげられた。正確な資料ではないが、明治の初期は日本人の三分の一が真宗だったという。
出版界では、困ったときは「親鸞頼み」という伝説があるそうだ。倉田百三、吉川英治、丹羽文雄、五木寛之など親鸞を扱った文学作品は枚挙にいとまがない。本書によれば、親鸞の生涯に関しては不明な点が多く、1921年に証拠の書状が発見されるまでは「親鸞はいなかった」という説もあったぐらいだから、イメージをふくらませやすいのだろう。
今ではやや忘れられ気味だが、大阪城の場所には石山本願寺があった。真宗が一大寺域を築き、織田信長を相手に10年にわたって攻防を繰り返した。その前段では加賀の一向一揆などがあり、真宗の歴史は平たんではない。そうした宗教がらみの様々な戦いでの殉死者は相当数に上るはずだ。
かつて権力に抵抗した宗派が、その後、日本最大の宗派になったというのは不思議な気がする。本書によれば江戸時代に入り、幕府と密接な関係を結び、体制に対して反抗しなくなったことが大きかったようだ。東西に分かれたのは「力をそぐ」という権力者側の意向が働いていた。
本書では他宗派についても細かく言及されている。むしろ、それがメーンになっている。各教団の思想やあゆみ、他派とのとの違いが丁寧に書かれ、理解が進む。バランスよく日本仏教について知るための入門書としては適切だと思う。
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