先端技術の進歩は私たちの生活を便利にした。勝手に掃除機が部屋を掃除し、ついには自動洗濯物畳み機なるものまで出現した。近い将来には完全な自動運転車も登場しそうな勢いだ。人類はあらゆるものを自動化させ、何でもボタン1つでできるような世界を作ったが、人間自体のスキルは上がっているのかというとそうではない。いやむしろ低下していると著者は言い、いくつもの実例を挙げる
。例えば、飛行士の操縦能力。米連邦航空局は、自動操縦システムを多用しすぎてパイロットの操縦技術が低下していると警告する通知書を出している。特に、望ましくない状態から飛行機を素早く立て直す能力の低下が著しいという。航空業界では今、離陸と着陸のほんの数分間だけパイロットが操作すれば、無事に目的地までたどりつけてしまうほど自動操縦が発達している。つまり、パイロットが自分の操縦技術を実践する機会が減ったためだ。人のスキルは使わなければ劣化する。
航空機だけの話ではない。身近な例でいえば、携帯電話やパソコン。昔はスラスラと覚えていた電話番号が今では覚えられない。簡単な漢字が書けない、思い出せない。もっと言えば、太古の人間は誰もが火を熾すことができただろうが、今マッチやライターのない状態から火を熾せる人間がどれだけいるだろうか。
電話番号が思い出せないくらいなら誰にも迷惑はかからない。しかし、冒頭の飛行機の操縦スキルの低下は大惨事につながる可能性がある。本書ではそんな例が次々と指摘されていく。電子カルテの登場によって医師の診察能力が下がり、医療費が増大しているという研究もある。GPSを使うことに慣れてしまったイヌイットは、自力で旅ができなくなってしまった。工場ではオートメーション化が進み、雇用形態まで変わってしまった。これまで人間が行っていた苦労を機械やコンピューターが肩代わりしてくれるようになった結果、本来持っていた人間の能力が失われているのではないかと疑問を投げかけているのが本書なのだ。
著者はさらに、今後の憂慮すべき事態を警告している。道徳的な判断さえも機会やコンピューターが教えてくれる社会が近づきつつあるのだ。AIが本格的に社会に浸透した、果たしてその時、人間はどんな存在になり、世界はどのように変わるのか。
著者の結論はこうだ。「未来の社会の幸福を確かなものにするには(中略)機械よりも人間を優先すること」だ。どこまでが自分の力でできており、どこからが技術のおかげでできているのかを自覚することと、せめて知の労働だけは機械任せにしない決意が必要だろう。(BOOKウォッチ編集部 スズ)
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