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この行動派の女性記者は4か国語をこなすようだ

ルポ 隠された中国

 マスコミの海外特派員には二つのタイプがあるように思う。イメージで言えば、瀟洒なオフィスにデンと構え、優雅にパイプ煙草などをくゆらしながら英字紙や仏語紙などを読んでいるタイプと、地元記者以上に現場に突っ込み、忙しく走り回っているタイプだ。

 本書『ルポ 隠された中国』の著者、元朝日新聞上海支局長の金順姫さんは、当然ながら後者だ。女性の特派員では珍しく危ない現場取材もタフにこなしている。

取材の特徴は、「聞き込み」

 金記者の名前は、新疆ウイグル地区のテロ事件の署名記事で知った。数年前、中国各地でウイグル族のイスラム教徒が関係したとされるテロ事件が相次ぎ、特に新疆で頻発した。そのとき果敢に現地取材をこなして、かなりきわどい記事を連発していたと記憶している。本書でも、そのあたりの話が軸になっている。

 新疆ウイグル地区が歴史的にも、宗教・人種的でも厄介なところだということは、1997年に出た『幻の「東突厥斯坦共和国」を行く』(入谷萌苺著、東方出版)などで書かれていたが、近年の推移をみると、その予言通りだった。金記者は、事件が起きるとすぐに飛行機のチケットを手配し、現地に駆け付ける。取材スタイルの特徴は、「聞き込み」。手当たり次第に現地の人に声を掛け、キーマンを探し、真相に肉薄しようとする。テロ容疑者の実家を突き止めて肉親にインタビューするなど、いわゆる「記者クラブ記者」とはかなり行動が異なる。

近づいてくる見知らぬ男

 「都合の悪いことは隠し、批判を封じ込めようとする」――事件や事故の現場にこそ、政権の真の姿が如実に表れる、と金さんは書く。だからこそ現場に出かけるというわけだ。

 テロや事件だけでなく、子供の貧困や同性愛など様々な中国の隠された側面に切り込んでいる。取材先ではしばしば「あなたのお手伝いをしましょう」と見知らぬ男が近づいてくる。言うまでもなく公安当局の人だ。特派員の行動はつねにマークされている。

 「責任逃れや批判を避けるための世論の誘導、取材妨害などに費やす労力があるなら、貧困や孤独にあえぐ子供たちに何かできないのか」 

 金記者は中国政府機関の対応に怒りを新たにする。監視役の眼を振り切って、いかにして取材を広げるか。それが中国特派員の腕の見せどころだ。

 名前を見る限り、金さんは「在日」なのだろう。振り仮名も「きむ・すに」となっている。日本に一定数の在日の人がいるように、日本のマスコミにも一定数の在日の人がいると思われるが、単行本を出す記者は珍しいのではないか。金記者はセウォル号の沈没事件では韓国に応援取材で行ったと書いているから、韓国語も理解できるようだ。海外特派員は英語が必須。加えて中国、韓国語がわかる多言語記者と思われる。1976年生まれ。複雑化する東アジア取材で、注目の行動派記者だろう。

  • 書名 ルポ 隠された中国
  • サブタイトルルポ 隠された中国
  • 監修・編集・著者名金順姫 著
  • 出版社名平凡社
  • 定価本体760円+税
  • 判型・ページ数新書・208ページ
  • ISBN9784582858556
 

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