『バカの壁』400万部、『死の壁』などシリーズ累計で600万部を突破した解剖学者の養老孟司さんの最新刊は『遺言。』だ。いつもと同じ語り下ろしかと思ったら、なんと四半世紀ぶりに一から書いた書下ろしだという。しかも題名から、処世訓めいたものかと思ったら、超まじめな科学がテーマの本なので驚いた。
先生が死ぬ前に言っておきかったことの一つが「意識が害になる」ということだという。そのため本書は動物とヒトを比較して説明が進む。たとえば動物は目に光が入る、耳に音が入るといった感覚所与を使って生きている。「だから動物は字を読めない、あるいは言葉がしゃべれない。それは動物がバカだからではない。感覚所与を優先してしまうからである」と説明する。それに対してヒトは感覚所与を意味に変換するという(先生は「焦げ臭い」<感覚所与>=「火事じゃないの」<意味>の例を挙げている)。感覚を忘れ、意味が意識の中心を占めてしまうのだ。そして現代都市は意味に満ちていると警告する。
だから少子高齢化の問題についても、こどもという自然を意識が排除するため、人々は子作りをためらうという。ちなみに人口の再生産率が日本でもっとも高いのは、鹿児島県の奄美群島、徳之島の伊仙町だそうだ。
都市化が進むと人間は「感覚入力を一定に限ってしまい、意味しか扱わず、意識の世界に住み着いている」ようになると説明する。
朝日新聞(2017年12月3日付)の読書面のインタビューで、先生は「あとは死ぬまでウロウロですかね。昔から、最期は芭蕉か西行かだと思ってたんです。野ざらしで終わるのがいい」と答えているが、当面亡くなる予定はないので、本書も『遺言1.0』の方がいいとも。本書で扱った「差異と同一性」「相似と相同」といった科学的テーマで続編が出そうだ。「遺言」とまともに受けてはいけない。
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