来年(2018年)のNHK大河ドラマ「西郷(せご)どん」の放送前とあって、書店には多くの「西郷本」が並んでいる。その中でも本書はコンパクトだが、最新の研究成果を盛り込んだ決定版と言えよう。
著者の家近良樹さんは幕末維新史を専門とする歴史学者だ。今年(2017年)、原稿用紙1200枚に及ぶ評伝『西郷隆盛』(ミネルヴァ書房)を刊行したばかり。本書はそこで取り上げることのできなかった3つの問題を考察した後編にあたるという。その3つとは。
1 辺境に属する地にあった薩摩藩が、なぜ幕末維新史において主役の座を射止めたか
2 その薩摩藩にあって真の主役ははたして誰であったか
3 西郷隆盛が幕末維新史で余人をもって代えがたい「図抜けた存在」にまで昇りつめたのはなぜか
これらの問題意識のもと、西郷隆盛の人間像に迫ったのが本書である。
朝日新聞(2017年11月26日付)読書欄のインタビューで家近さんは「人材と人物は違います。いまの日本ではすぐ役立つことに価値を置きますが、人物は効率から生まれない。人物を育むのは余裕。それは回り道や失敗体験を経ないと身につかない」と語っている。
実際、西郷は沖永良部に流され、読書を中心とする勉学のかたわら、それまでの自分の在り方を見つめ直し、「変身」したという。「人材」のレベルから、思慮深く、かつ志操堅固な「人物」のレベルへと成長したというのだ。もっとも、慎重になった分、その後の行動の意味は解りづらくなったというのだが。
西郷をめぐるいくつもの謎にも取り組んでいる。なぜ写真が残されていないのか、なぜ無類の犬好きとなったのか、なぜ徳川慶喜を過大評価したのか、などなど。それらへの回答を読むと、より西郷への親しみがわいてくる。
大河ドラマでは、人物中心史観からどうしても西郷の良さばかりにスポットライトが当てられることが予想される。本書を読めば、西郷がなぜ辺境の鹿児島の下級武士から維新の中心人物にまで昇りつめたのか、その過程がより大きな視野の中でとらえることができるだろう。
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