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私鉄沿線には昭和の夢があった

私鉄郊外の誕生

 

 少し前に「私鉄沿線」という歌がヒットした。もちろん「中央線」という歌もあるのだが、前者のもつフレッシュさや親しみやすさが、すでに明治時代に出来上がっていた後者にはない。大都市近郊に展開する私鉄にはそれぞれイメージや育まれた文化がある。海外にも私鉄はあるが、日本ほど私鉄が発達している国はない。この日本特有の私鉄郊外の住宅地がどのように形成されたのかを全国の研究者16人がまとめたのが本書である。研究書の水準を保ちながらも平易な読み物として楽しむことが出来る。

 

 目次に沿って、どのような街がつくられたかを見ると、首都圏だけでなく、名古屋、関西、福岡と戦前から全国で私鉄沿線の開発が進んだことが分かる。

 一例を挙げると、東京急行電鉄では、洗足・田園調布、大岡山・日吉。小田急電鉄では、成城学園・玉川学園。京王電鉄では京王閣と多摩川原遊園地、名古屋鉄道では、新舞子文化村、なるみ荘、たつみケ丘住宅地。近畿日本鉄道では生駒山麗小都市計画、学園前住宅地など。純粋な住宅地だけでなく、学園や行楽地など特色ある開発も少なくなかった。

 豊富な図面や写真を見るだけで、多くの夢があったことが感じられる。これらの地名の中には、今ではどちらかというとマイナーであり、その後も進んだ沿線の開発によって埋没している印象すら受けるところも少なくない。しかし、こうした先進的な取り組みがあったからこそ、日本の都市の郊外の景観は、ある水準を保っているのではないのだろうか。

 本書は片木篤・名古屋大学大学院教授が編者となり、建築系を中心とする研究者が携わったものである。阪急の小林一三氏の例からも分かるように、私鉄の創業者は単なるディベロッパーにとどまらなかった。自らが育んだ夢や理想、文化を私鉄の路線を通じて実現しようとした。今後、人文、歴史など他のジャンルからも都市郊外の研究が進むことを期待したい。

  • 書名 私鉄郊外の誕生
  • 監修・編集・著者名片木篤 編
  • 出版社名柏書房
  • 出版年月日2017年8月10日
  • 定価本体価格3400円+税
  • 判型・ページ数A5判・296ページ
  • ISBN9784760148882

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