公務員幹部の大事な仕事に「議会答弁」がある。本会議や委員会で議員の質問にうまく答えられるかどうか。
自分が下っ端職員で、まだ答える立場ではなくても、上司のためにきちんと資料を用意する必要がある。はたして想定問答集は完璧になっているか。世間では余り知られていないが、けっこう不安で神経をすり減らす。
本書はそうした「悩める公務員」のために、議会答弁のノウハウを開陳した本だ。筆者の森下寿さんはペンネーム。実際に自治体で人事、財政、保育、防災など幅広い分野を担当し、議会事務局の経験もある管理職。10年以上にわたって本会議や委員会で答弁してきたベテランだという。
「議会答弁の基礎知識」から「本当に困ったときの答弁裏ワザ集」まで、8章に分けて長年の薀蓄が披露されている。本会議と委員会の違い、質疑と質問の違いなどのイロハ、さらには自治体ごとに異なる議会運営のローカルルール、議員との日頃の関係づくりの大切さや、「やってはいけないダメ答弁」まで懇切丁寧だ。
例えば「検討します」と「研究します」はどう違うか。「検討」には行政として将来、何らかの結論を出すという意味合いが含まれる。「研究」は結論を出すことが前提になっていない。最近は、しばしば言い逃れで「検討」が使われるようだが、本書によれば後日、議員から「どうなったか」と執拗に聞かれる恐れがある。軽々には使うべきではない用語のようだ。
このほか「善処」「努力」「「考慮」「対処」「処理」などの微妙な違いについても解説がついている。
「想定問答は必ず部下に作らせる」と言うことも強調されている。理由は、「複数の人間が想定問答集を作成することで、間違いを防ぎ、精度が高まる」だけではない。「想定問答集を作る」と言う作業を組織に根付かせることにつながる。人事異動などで担当者が替わっても、たとえば予算審議時期には必ず想定問答集を作る、ということが組織の仕事として継続されることになるからだ。
「議員の質問内容が間違っているとき」の指摘の仕方や、「困った時の答弁のコツ」「答弁裏ワザ集」などもあり、至れり尽くせりだ。
出版元の学陽書房は公務員をターゲットに昇任試験やクレーム対応術、「図説よくわかる」シリーズなど多数の関連書を出版している。昨年出版した『これだけは知っておきたい 公務員の議会対応』でも、第4章に「管理職の議会答弁のノウハウ」あった。本書はこの部分をさらに深彫した形となっている。
もっとも本を読んだだけで答弁上手になるとは限らない。そのあたりは多数の失敗答弁を重ねてきた著者も、先刻ご承知だ。「うまくするためにはどうしたらよいか。この問いへの答えは『結局、答弁は数多く経験して、慣れるしかない』と言うことに尽きます」と書いている。それは、どんな仕事にも共通する真理といえるだろう。
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