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働かなくても食える...かもしれない、デジタル新時代

デジタルエコノミーはいかにして道を誤るか

 著者は英経済誌「エコノミスト」記者。産業がデジタル化、IT化により革命的な構造進化を遂げた21世紀のこれまでに、世界が経験してきた政治や経済、社会の変化を考察し、それをもとに、経済を中心に今後の、さらにデジタル化が進んだグローバル状勢がどうなるかを論じている。

労働力余剰のなか生活と労働が折り合うよう...

 このところニュースで報じられることが多くなったものの一つに「自動運転車」がある。一部では無人運転のバスが試験運行されており、職業としての運転手が不要の時代がいつかはやってくる可能性をうかがわせる。

 デジタル化、IT化の以前から、機械化、自動化は進んでいるが、デジタル時代が本格して、その動きは加速している。AI(人工知能)の開発さらに進むと、人間の仕事がなくなってしまうのでと危惧する声もある。

 本書ではこれまでの例として、デジタルテクノロジーによって多くの印刷会社が廃業したことや「キュレーション型のニュースフィードサービス」が「熟練の編集者が担っていた役割の価値」を失わせ、ローカル情報交換サイトの「クレイグリスト」が新聞から案内広告の収入を奪ったことなどを挙げる。民泊仲介で利用者を増やしてきた宿泊情報サイトの「エアビーアンドビー」や、配車サービスの「ウーバー」などは、事業域を拡大してまだまだ成長しそうだ。

 こうしたデジタル革命進行の裏側の動きとして、米国の全男性の労働参加率1990年の約76%から2015年に69%の減少したことや、欧州では成人男性の5人に1人の割合で職がない現状を紹介している。つまり【1】デジタル革命による自動化【2】グローバリゼーションの高進(先進国の企業のサプライチェーンの管理が容易になり新興国では雇用拡大)【3】スキルの高い少数の人間の生産性向上――の主に3つの要素から、労働力が余る時代になってきた。

 著者は「大デジタル化時代の繁栄を築くとは、すべての労働者に経済成長の恩恵を受けさせる制度を構築することではない。経済成長に必要な仕事ができないために働かない人々が食べていける制度を構築すること」と述べ「ベーシックインカム」「シェアリングエコノミー」など例を挙げ、未来の労働のあり方を議論する。「ベーシックインカム」は、毎月一定額を給付するもので"究極のばらまき"ともいわれる。

「テクノロジーがもたらした労働力余剰の世界で生活と労働の形をどう整えていくか」が本書では考察され、週刊ダイヤモンド(2017年11月25日号)で本書に言及した作家・元外務省主任分析官の佐藤優さんは「優れた現状分析兼近未来予測の書だ」と述べている。

 この訳書のタイトルからは、デジタル革命により経済や社会が暗転する可能性を論じているようにも思えるが、筆者は悲観的ではなく、激動も文明により安定が導かれると考えている。

  • 書名 デジタルエコノミーはいかにして道を誤るか
  • サブタイトル労働力余剰と人類の富
  • 監修・編集・著者名ライアン・エイヴェント著、月谷真紀訳
  • 出版社名東洋経済新報社
  • 出版年月日2017年10月20日
  • 定価本体1800円+税
  • 判型・ページ数四六判・376ページ
  • ISBN9784492654804

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