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日本人がびっくりする日本のカレーのルーツ

幻の黒船カレーを追え

 国民食ともいわれるカレーだが、そのルーツは実は、知られているようで知られていなかった。インド由来に違いはなさそうだが、直にもたらされたものではないという。著者は、無類のカレー好きが高じて、サラリーマン生活の傍ら、その研究を続けた。起源の真実を確かめるため国内各地を訪ねるが、思いは果たせずついに、勤めを辞め家族を残し追跡の足を海外へと延ばす。さまざまなカレーの食レポを交えた冒険旅行の珍道中記。

インドじゃないことは関係者の常識

 著者はカレー関する著作がすでに40冊近くあるだけに、その歴史についてもちろんリサーチ済みだ。「日本のカレーは、インドからイギリスを経由してやってきたと言われている。明治維新の頃に文明開化の波に乗ってきたから、もう150年も昔のことである。このことは日本のカレー関係者の世界では常識だが、一般的には意外と知られていないことだ」

 耳学問でそんな説明を上から目線でできるようにはなったが、マニアとしては、その味、その香り、その姿を知らないことには満足できない。そこでまず、明治の初めに英国からの「黒船」が立ち寄り、洋食メニューとしてカレーが伝わった可能性がある5つの商用港の街と、海軍の食事として伝ったかもしれない5つの旧軍用港の街を訪れてみたのだが、どこにもその手がかりは残されていなかった。

 「黒船」といえば、江戸時代末期に米国からペリー提督が乗って日本に来航した蒸気船のことを指すとばかり思っていたのだが、それ以前から日本に姿を見せていた欧州船も、防水用の黒い樹脂(ピッチ)を塗っており黒船と呼ばれていた。米国の黒船が着いた、神奈川・横須賀や静岡・下田では飲食店に「黒船カレー」というメニューがあるようだが、本書の黒船カレーとは関係がなさそうだ。

英国にはなかった「欧風」カレー

 さて、著者のルーツを求める情熱はやまず、ついに日本のカレーの原形がつくられたとみられる英国に渡る。探索は長くなることが見込まれたため、勤務していた広告代理店を辞め、妻子4人は日本に残しての単身渡航。ロンドンでしばらく過ごし、大英図書館に通い文献にあたり、市内じゅうのパブやレストランを調べたのだが、それらしきものは見つからない。

 日本の飲食店では、カレーソースポットに入れて供されるカレーを「欧風」とされることがあるが、少なくてとも英国ではそれは"迷信"だったようで、著者がロンドンで経験したカレーはインド料理のタイプだった。つまり、英国のカレーはインドカレーであり、日本のカレーの原形に結びつかない。

 週刊新潮(2017年10月5日号)の書評で本書をとりあげた作家の大竹昭子さんは、英国で手がかりがなく、日本のカレーライスが「独自の食文化になったらしいとわかってくる」ポイントで、黒船が来航した港町で取材したカレーの名人シェフたちの報告が頭のなかで追いかけてくるという。「私たちが親しんでいるカレーライスが彼らのこだわりと努力なくして誕生しなかったことが、切々と伝わってきたのである」と大竹さん。

  • 書名 幻の黒船カレーを追え
  • 監修・編集・著者名水野 仁輔 著
  • 出版社名小学館
  • 出版年月日2017年8月 8日
  • 定価本体1500円+税
  • 判型・ページ数四六判・272ページ
  • ISBN9784093885690

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