今期芥川賞受賞作。本作の受賞をめぐって選考委員会はもめにもめたという。「文藝春秋」9月号の選考委員の選評を読むとよくわかる。たとえば東日本大震災の扱いについて。宮本輝氏は「東日本大震災に向き合った数少ない小説と評する委員もいたし、たしかに震災が小説の後半においてキーワードにはなっているが、私は、あの巨大な震災など、この小説のどこにも書かれていないと感じた」と全否定だ。これに対し、島田雅彦氏は「あの日を境に変わってしまった世界の心象を繊細に掬い上げることに成功している」と肯定的だ。
こう書くと、大震災がテーマのように受け止められるかもしれないが、それは少し違う。日経新聞書評の評者、佐々木敦氏(批評家)は「すぐれた『釣り小説』であると共に、不思議な友愛の物語である。そして捻じれた、しかし切実なアプローチによる『震災後小説』でもある」と書いている。
本作がデビュー作で文学界新人賞にして芥川賞受賞作となった。ラッキーボーイだが、叙述は確かだ。東北・盛岡周辺の里川の描写がすばらしい。自然への感受性が素直な分、人間関係の問題がより浮き上がってくる。
94ページという短さ。束の薄さが気になる。選考委員の奥泉光氏が「これは序章であって、ここから日浅と云う謎の男を追う主人公の物語がはじまるのでないかとの印象を持った。ぜひとも続きをお願いしたい」。気持ちのいい作品である。続きが読みたい。
当サイトご覧の皆様!
おすすめの本を教えてください。
本のリクエスト承ります!
広告掲載をお考えの皆様!
BOOKウォッチで
「ホン」「モノ」「コト」の
PRしてみませんか?