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「プール」が成功すればタカラヅカはなかった?

書評掲載元:読売新聞 2017年8月21日 書評

小林一三は宝塚少女歌劇にどのような夢を託したのか

 宝塚歌劇は1914年に創始され、2014年に100周年を迎えた。同年から16年まで3年連続で観客動員数は270万人を超え、それも年を追って増加しているというから、17年もその追い風に乗っているに違いない。1世紀を経てなお日本のエンターテインメント文化を華々しく彩る宝塚。本書では、現代の宝塚を支える草創期のことを深く掘り下げている。

 著者の伊井春樹さんは、源氏物語が専門の国文学者。大阪大学文学部教授、国文学研究資料館長などを経て、阪急文化財団理事に就任。同財団が管理する、阪急電鉄の創業者、小林一三ゆかりの美術品などを収蔵する逸翁美術館(大阪府池田市)の館長を務めている。

 宝塚歌劇は、その小林一三が、大阪・梅田-兵庫・宝塚間に開業した鉄道の集客策の一環としてプロデュースしたものが始まり。阪急電鉄の前身、箕面有馬電気軌道の沿線各地で小林は、住宅分譲やレジャー施設の建設を進め、終着駅の宝塚では温泉地を開き、大規模なプールを建設した。ところがこれがうまくいかなかったため、水を抜いたプールを客席に、脱衣場を舞台に仕立て、16人の少女による「宝塚唱歌隊」の実演を始めた。

 プールから劇場への転換は、100周年を迎えて特集が組まれたテレビ番組などで紹介され、小林の経営者としての決断が注目されたものだが、本書によると、プールは実は劇場などにも使えるよう計画されており、伝記として知られるようになったエピソードは、タカラヅカの起源が少々誇張されているという。

 本書ではほかにも、宝塚歌劇のはじまりをめぐるさまざま通説を再検討。少女歌劇なのになぜ初公演の演目に「桃太郎劇」が選ばれたのかを、当時の演劇事情を紹介しながら説明するなど、明治・大正期の文化史論にもなっている。

 評者を務めた京都大学教授の政治史学者、奈良岡聰智さんは「タカラヅカは、しばしば特異な存在だと見られるが、明治末から大正期の文化の最新トレンドを反映していたのである」と述べる。昭和期から100周年を迎えた平成の時代にも人気を維持し続けているのは、なお最新のトレンドを反映しているからに違いない。

  • 書名 小林一三は宝塚少女歌劇にどのような夢を託したのか
  • 監修・編集・著者名伊井 春樹 著
  • 出版社名ミネルヴァ書房
  • 出版年月日2017年7月10日
  • 定価本体2800円+税
  • 判型・ページ数四六判・298ページ
  • ISBN9784623079988
 

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