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実は毎日食べている「ミリタリー飯」

書評掲載元:週刊新潮 2017年8月10日号 書評

戦争が作った現代の食卓

 インターネットやGPS(衛星利用測位システム)など、軍事用に開発されて民間に転用され、現代の生活に欠かせないものになっている技術の例は数多い。軍事技術の転用は実は、こうした社会インフラだけではなく、われわれの食生活を側面から支えている。本書は、日本の食卓でもすでに広く親しまれている加工食品などをめぐり、その技術開発の背景を探ったノンフィクション。

 本書によれば、スーパーマーケットに数多く並ぶ「安くて長持ちする食品」のルーツは、兵士に支給される携行食であり、わたしたちが毎日の食事で親しんでいる、プロセスチーズやパン、成型肉、レトルト食品、シリアルバー、スナック菓子、缶詰、フリーズドライ製品などにくわえ、食品包装用ラップやプラスチック容器などでも、その開発に軍事技術が大きな役割を果たしてきた。

 著者が「アメリカ食料供給システムの中枢」として取材したのは、米陸軍の衣食住に関する研究機関である「ネイティック研究所」。マサチューセッツ州中央部、ボストン郊外の町、ネイティックにある。同研究所ではレトルト食品をはじめ、高温でも溶けないチョコレート、日持ちが長いパンなどのほか、フリーズドライ技術の開発にかかわってきた。

 フリーズドライ技術は、野戦病院で使う治療のために開発されたのが最初。血漿を冷凍後に乾燥させ粉末化したものだが、日本では近年、食品加工会社がこの技術を使った味噌汁を競って開発している。

 著者は米国でさまざまなメディアを舞台に活躍するフードライター。「見えるものの裏側に隠れているものに興味がある」と自身の名前をドメインにしたウェブサイトで述べている。本書をめぐっては、子どもに持たせる弁当をつくるためにいろいろ使っていた加工食品について不信感や疑問を抱くようになり、それらを解き明かす鍵がネイティック研究所にあることを知って取材を始めたという。

 評者の元日本マイクロソフト社長で HONZ代表の成毛眞氏は、客観性をこころがけた取材や報告、解説に加え読者に判断を委ねた仕上がりを指摘したうえ「日頃の食卓を見直すためにも読んでおきたい一冊だ」と、推奨の言葉を添えている。

  • 書名 戦争が作った現代の食卓
  • サブタイトル軍と加工食品の知られざる関係
  • 監修・編集・著者名アナスタシア・マークス・デ・サルセド 著 田沢恭子 訳
  • 出版社名白揚社
  • 出版年月日2017年7月 3日
  • 定価本体2600円+税
  • 判型・ページ数四六判・384ページ
  • ISBN9784826901956
 

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