姿・カタチは日本人そっくりなのに、言葉や文化・習慣の異なる環境で育った日系ブラジル人。彼らは景気が華やかなりし頃に意を決して、自らのルーツである日本へやってきました。言葉の壁にあえぎながらも、一所懸命働きました。しかし、リーマン・ショックは容赦なく彼らの仕事を奪いました。国に帰る者、残って頑張る者に分断されます。群馬県の大泉町は、そんな彼らが多く住む町です。町民の10人に1人は日系ブラジル人。著者は、さまざまな背景をもつ彼らの日々の生活を追いかけました。
いろいろなエピソードが出てきますが、少し紹介しましょう。平成2年に大泉にやってきた角田さんは、1世の祖母から日本語を教わりました。日本に来て困ったのは、現代の言葉とのズレです。たとえば、「トイレ」を「便所」と呼び、皆に変な顔をされました。日系人の間では、結婚した女の人を、すべて「おばさん」と呼んでいたので、そう呼ぶとかなり怒られました。「私にはちゃんと名前がありますよ」と。
大泉警察署の鈴木さんは、住民からの騒音の苦情で現場に駆けつけてみました。するとそこはオリベイラさんの教会で、讃美歌が歌われていました。オリベイラさんは悲しみました。なぜ、警察ではなく私に直接いってくれないのかと。鈴木さんとオリベイラさんは解決策を考えました。コミュニケーションの場をつくるためには、何が必要か。そこで企画したのは、クリスマスイブの日の清掃活動です。参加者は少なかったものの、日系ブラジル人と日本人が初めて会話を交わす場が生まれたのです。
日章学園に野球留学し、活躍が認められて中日ドラゴンズ入りした、瀬間仲ノルベルトさんも登場します。ケガで野球は断念しますが、いまはホームレスにブラジル料理シュラスコの炊き出しをするボランティアをしています。ちなみにボランティアグループの名前は、「カンシャ(感謝)グループ」。周りの人への感謝の気持ちを忘れてはいけないと彼はいいます。
ライフ・イズ・ビューティフル! 彼らのたくましく生きていく姿をみると、だれもが元気になれます。
書名:移民の詩(うた) 大泉ブラジルタウン物語 著者:水野龍哉 発売日:2016/2/19 定価:本体1500円(税別)