日本の歯科医療で、いま、過当競争と、旧態依然とした業界に累積した弊害によって生じる、ある重大な問題が見過ごされている。
それは、中国産の入れ歯や差し歯などの義歯類が、医薬品や医療機器ではなく、単なる「雑貨」同様の扱いで、医療機器としての安全検査も受けずに輸入されているという驚くべき事実だ。
本来、厚生労働省で認めた「歯科技工士国家試験」に合格した者だけが「業務独占資格者」として造ることを許されているはずの入れ歯や差し歯、インプラントなどの補綴物。
これらの多くが近年、密かに中国で製造され、日本に輸入されて流通しているというのだ。
「私はあるきっかけで、私の腎臓が壊れた原因がこれだ!と確信したのです。
それは2008年に出た、新聞とネットのニュース記事です。
北京の弁護士が被害者の会を組織して政府を訴えようとしている、という記事です。
そこで、私と同じように突然の腎臓障害で苦しむ患者たちが『入れ歯や義歯を入れてからおかしくなった。義歯を抜いたらよくなった』と語っていたのです。
私はピンときました。私も、1999年に天津の有名な歯科医に頼んで、ほとんどの歯を義歯にしたんです。
それから数年後に、身体全体がおかしくなってきた。それまでは健康そのものだったのに」
大きな疑問が湧き上がってきた。
はたしてこれは、中国という未成熟国家の危険性を指摘するだけで事足りる問題だろうか、という疑問である。
あるいは、リスクを承知で中国に発注する一部の心無い歯科医師や、利益追求だけに猛進する歯科材料メーカーたちだけの問題だろうか。
いや、そうでもない。
彼らは、なぜ中国に製造を依頼するのか。なぜ、それを厳しく規制できないのか。
そして、なぜ、中国産や海外産の義歯にきちんと安全性検査を義務付けて、水際でリスクを防止できないのか。
これは、歯科医療の問題だけにとどまらない。看過できない、日本社会の構造上の闇だ。
私は強く確信を持つようになった。
【本文より】
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いまや「中国」と無縁で経済活動を営むことは難しい。消費者も、さまざまな形で「中国製品」を購入している。しかし、その背後には、生産する中国の「無秩序」と、輸入する日本の「無責任」という図式がある……。
著者は「義歯」という入り口から、中国製品をめぐる問題に切り込む。発がん性物質の検出が報告され、現地では健康被害が訴えられている「中国産」義歯を、日本は厳格な安全検査を行なうことなく、単なる雑貨物として輸入しているのだ。
中国の現場を取材し、日本の医療の実態を調査して浮かび上がった「闇構造」とは? 迫真のルポルタージュ!
【目次】
第1章 義歯とギョーザ
第2章 中国産義歯による健康被害の実態
第3章 日本の歯科医療を蝕む「安全神話」
第4章 技術権威主義からの脱却
【著者プロフィール】
鈴木譲仁(すずき じょうじ)
1954年生まれ。ジャーナリスト。中国を中心に、アジアの政治、経済、社会問題など幅広いジャンルで取材活動を行なう。『アジア黄金郷の旅 新日本人発見』(徳間文庫)、『「猛毒大国」中国を行く』(新潮新書)、『世界の中国人ジョーク集』(中公新書ラクレ)など著書多数。
http://shinsho.shueisha.co.jp/書名:ルポ「中国製品」の闇
著者:鈴木譲仁
発売日:2013年9月13日
定価:735円(税込)