著者の「こだま」さんは2017年、ブログに書いた夫婦間の言葉にできない実話をもとにした私小説でデビューした主婦だ。その本のタイトルはあまりに衝撃的だった。朝日新聞の書籍広告で書名は掲載されず、「書名は書店でお確かめ下さい」という前代未聞のエピソードとともに登場した。本は13万部売れ、「Yahoo!検索大賞2017」小説部門賞を受賞、いまは週刊誌などに連載コラムを持っている。その「こだま」さんの自伝的エッセイが本書『ここは、おしまいの地』(太田出版)だ。
「ヤンキーと百姓が九割を占める集落で生まれ育った。芸術や文化といった洗練されたものがまるで見当たらない最果ての土地だった」と本文にある。北海道あるいは東北かいう話もあるが、どこでも地方の農山村は同じような閉塞感に満ちている。
前著は夫婦間の営みがつき合って以来出来ないというシリアスな内容だったが、ひょうひょうとした語り口が評判を呼んだ。本書も幼いころから病気続き、田舎を出て大学に進み、教職につき結婚したもののこころの病で退職、生まれ故郷の田舎に戻ってきたという、ぱっとしない経歴の著者が体験した実話をこれでもかと開陳している。いろいろ変わったトラブルに巻き込まれる癖もありミステリアスだが、ちょっとおばかな世界だ。
そのまま家にこもっていたら、生活も人生も行き詰っていただろう。ある日、変わろうと思い、地域の情報誌のライターとなり、文字を書くようになり少しずつ変身する。「言えないからこそ私は書いているのだ」と。
40歳を前にネットで知り合った仲間3人と同人誌を作り、「文学フリマ」に参加。その時の寄稿がデビュー作につながった。前著も雑誌の連載もすべて家族と夫(婚姻関係は維持している)には内緒にしているという。
何もない田舎、恥ずかしい私生活、すべてありのままに書いたら、「おしまいの地」は「おもしろの地」になったと、あとがきに書いている。「転落しても、その体験を書けばいい」という境地に達した著者から読者は勇気づけられるだろう。
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