今年もいよいよゴールデンウィークが始まる。連休明けに憂うつになり、会社や学校に行きたくなくなる、いわゆる「5月病」にならないために、今からできることはあるのだろうか?
『精神科医が教えるこじらせない心の休ませ方』(大和書房)の著者で、保坂サイコオンコロジー・クリニック院長の保坂隆さんに、5月病のメカニズムと対処法についてお話を伺った。今のタイミングで知っておきたい、心を守るためのポイントとは。
――まず、5月病にはなぜなってしまうのでしょうか。
5月病は、日本固有の言葉です。なぜなら仕事や学校が4月始まりだから。たとえば、アメリカは9月始まりですね。韓国は3月からなので、5月病と似た症状が4月に出るそうです。
4月から新しい環境に変わることでなりやすい5月病ですが、大きく分けて2つのタイプがあります。1つめは、新しい環境に夢や理想を抱いていたタイプ。理想と現実が違うということに4月で気づいて、5月に「どうしよう」「やめようかな」と悩むようになります。ロマンチストの傾向がある人に多いパターンですね。
もう1つ、こちらが日本人にとても多いのですが、新しい環境に適応しようと頑張りすぎて5月にエネルギー切れになるタイプです。真面目で責任感が強い人がなりやすく、多くの場合、「ねばならない」思考に陥っています。早く仕事を覚えなければならない、ミスなくこなさなければならない......そうやって、自分を縛っていってしまうんですね。「ねばならない」思考の弊害については『精神科医が教えるこじらせない心の休ませ方』にも書いています。
今回は、2つめのタイプについて詳しくお話しします。
――5月病を発症するまでの過程を、さらに詳しく教えてください。
はじめは、新しい環境に適応しようと頑張りすぎる段階ですね。僕はこれを「過剰適応」段階と名付けているのですが、実は、この段階は「ないとまずい」ものなんです。過剰適応がない人は「この職場に貢献しなくてもいいや、慣れなくてもいいや」と考えていて、仕事をすぐに辞める可能性が高いですからね。逆に、真面目な人たちには、過剰適応の段階があるんです。
「過剰適応」段階が進むと、「神経過敏」になってピリピリしてきますが、ほとんどの人はなんとかして一定のラインを保っていきます。ランチや飲み会に行って、上司の悪口なんかを言って憂さ晴らしをするんですね(下図の青線部)。しかし、まだ人間関係が築けていないなど憂さ晴らしの機会がない人が、5月病やうつへと向かっていってしまいます。
憂さ晴らしができないと、まず、「無関心」という段階に入ります。今までのように仕事に夢中になれず、凡ミスをするようになるんです。この時点で上司や同僚が気づいて、「最近元気ないんじゃないの?」と声をかけてあげるのが大事です。「気にかけてくれる人がいる」とわかるだけでも気持ちが楽になりますからね。
しかし「無関心」に誰も気づかず、そのまま放っておくと、私が「引きこもり」と呼んでいる段階に行きます。外での発散ではなく、一人で、家でお酒を飲んで、遅刻したり二日酔いで仕事に来るようなことが起こります。さらに進むと「抑うつ」、つまりうつ病の段階に入り、仕事を休みがちになったり、退職願を出したり、最悪の場合は命にかかわる「行動化」に至ります。
たいていは抑うつの段階で家族が気づいてクリニックに来ますが、職場では、「無関心の段階」で気づいてあげてほしいですね。早期発見で、5月病は防ぐことができるのです。
――ゴールデンウィークの過ごし方で、5月病を防ぐことは可能でしょうか。
ゴールデンウィークの使い方はとても重要です。ここでギアチェンジができる人は、5月病になりにくくなります。ギアチェンジにはいろいろなやり方がありますが、完璧主義思考から、「ちょっとくらい自分勝手していいんだ」と自分を許し、ゆるめてあげることが大事ですね。ゴールデンウィークの間に、「これまで頑張りすぎていたのでは?」とぜひ自問してみてほしいです。
さらに、休みの間にどこかへ一泊の小旅行をしようとか、今日だけ贅沢な食事をしようとか、気分転換になることをしてみてください。自分にご褒美のプレゼントを買うのもいいと思います。「私って頑張ってるじゃないの」とか「私ってすごいよね」と、自分自身を褒めてあげましょう。
――では、もし5月病になってしまったら、対処法はありますか。
なってしまったときには、できる限り早期発見・早期治療が重要です。疲れてきた、眠れない、お酒の量が増えたなどのサインを見逃さないでください。図でも説明しましたが、周囲の人が気づいてあげるのも大事ですね。
――4月から新しい仕事を始めた人もいれば、異動や昇進などで新しいポストに就いた人もいると思います。もし今頑張りすぎていたら、どうすればよいでしょうか。
力の抜き方を覚える、いい加減でやめる、完璧主義はやめるということをまずしてほしいです。本の中でも紹介していますが、「テーゲー」という沖縄の言葉を参考にしてはいかがでしょう。「大概」と書き、「適当、ノンビリしている、細かいことを気にしない」といった意味で使われています。沖縄の人たちの「テーゲー」ぶりはなかなかですよ。一度、沖縄の人と会議をする機会があって、私は時間よりも早く着いたのですが、開始時間の3時になっても来る気配がない。連絡すると、「3時なのでこれから出ます」と返事が(笑)。完璧主義の人は、「テーゲー」と自分に言ったり、周りの人と言い合ったりできるといいですね。
他にも、ストレスがかかったときのいろいろな対処法を書いているので、ぜひ参考にしてみてください。
頑張りすぎている人は、ぜひ「テーゲー」を合言葉に、ゴールデンウィークの間で自分をゆるめてあげてほしい。また周りに頑張りすぎている人がいたら、積極的に声をかけてあげよう。
■保坂隆さんプロフィール
ほさか・たかし/保坂サイコオンコロジー・クリニック院長。1952年、山梨県生まれ。慶應義塾大学医学部卒業後、同大学医学部精神神経科入局。東海大学医学部教授、聖路加国際病院リエゾンセンター長・精神腫瘍科部長、聖路加国際大学臨床教授を経て、現職。著書に『精神科医が教える50歳からの人生を楽しむ老後術』『精神科医が教える50歳からのお金がなくても平気な老後術』『精神科医が教える60歳からの人生を楽しむ孤独力』『精神科医が教えるすりへらない心のつくり方』がある。
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