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共感は必要ない。1000人にインタビューした尹雄大さんが気づいた、「人の話を聞ける自分」になる準備とは

Hariki

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聞くこと、話すこと。

 「コミュニケーション術」、「質問術」、「傾聴力」。話の聞き方を説くハウツー本があふれている。その方法通りにやれば、「話を聞く」ことになるのか? 何か大事なものを取りこぼすのではないだろうか? そう問題提起するのは、作家・インタビュアーの尹雄大(ゆん・うんで)さんだ。

 2023年5月に発売された尹さんの著書『聞くこと、話すこと。』(大和書房)は、その名の通り、聞くこと・話すことについてとことん考える一冊。『ドライブ・マイ・カー』の映画監督・濱口竜介さんや、ケア技法「ユマニチュード」を開発したイヴ・ジネストさんら4人の著名人へのインタビューを通した、思考の記録だ。

 決してわかりやすいメソッドが書いてある本ではない。エッセイのようでもあり、哲学的で、文学的。「尹さんの頭の中」としかジャンル分けできないようなこの本に込められた思いとは。本当に「話を聞く」ためのヒントを、尹さんにうかがった。

尹雄大さん
尹雄大さん

「オチ」「共感」「ジャッジ」はいらない

 これまで1000人以上にインタビューし、作家活動をしている尹さんだが、もともとこの仕事をしようと思っていたわけではない。それどころか本書の第5章には、聞くのも話すのも苦手な子どもだったと書いている。30代に入ってから、たまたま知り合いから「インタビュアーを探しているがやってみないか」と声をかけられたのが、今の仕事を始めるきっかけだった。

「当時は高校生向けのWeb媒体で、識者やアスリートなどいろいろな業界で活躍している人に、今の仕事と10代の頃のことについて聞いていました。そこで聞いたみなさんの話が面白かったんですよね。自分が知り得ないことを話してくれますから。ただ、聞き方はつたなかったので、取材相手に関する文献を片っ端から読んで質問の数で勝負していました」

 今では、尹さん自ら「これが聞きたい」と質問することはなく、相手が話している中で矛盾していると思うところに目を向け、それについて質問をする。本書ではこの姿勢を「積極的に受け身」になると表現している。

『聞くこと、話すこと。』尹雄大 著(大和書房)
『聞くこと、話すこと。』尹雄大 著(大和書房)

 現在尹さんは、話を聞いてもらいたい人のための「インタビューセッション」という試みをおこなっている。公式ホームページでは「あなた自身で問題そのものを解消させるための時間」と紹介されているが、そこではどんな話を聞いているのだろうか。

「僕は神戸出身なんですが、よく『関西の人はオチのない話をすると怒る』と言われるじゃないですか。オチのある話って、要はパターンなんですよね。多くの人が、オチや共感を目指したパターンに乗っかっていればコミュニケーションが成立すると思っているわけです。

 そこには、パターンにはまらないことに対する恐れが隠されています。『オチのない話は受け取ってもらえない』と思っているんです。すると、オチをつけながら自分の思いとは別のものを話すことになる。本当に伝えたいことが自分の中で行方不明になってしまいます。このようなパターンで馴染んでしまった言葉遣いの、外にある思いを聞きたいと僕は思っています」

 話し手は「オチ」に逃げがちだけれど、そうでないところに本当の思いがある。さらに、聞き手に目を転じると、本当の思いを聞くことを阻害しているのは「共感」や「ジャッジ」だ。

「聞く方も、『要するにこういうことでしょ?』と口をはさんで最後まで聞かないことが多いですよね。共感できることは共感するけど、共感できない話だと『それは良い・悪い』とジャッジしがちです。それは相手の話を自分の価値観で分類しているだけで、『話を聞く』ということとは違うなと思います。

 自分の価値観がどう成り立っているのかをわかっておけば、それを一旦横に置いて、人の話を聞くことができます。人の話を聞こうと思ったら、まずは自分を知ることが重要です」

自分にネグレクトをしていないか?

 自分を知ること。その中でも特に注目しているのは、自分自身へのジャッジについてだ。インタビューセッションの相手の中には、頭の中で「お前はダメだ」という自己否定の声を繰り返し聞かされてきた人も少なくないという。「でも、どうしてそう言っているのかをその声に尋ねてみた人はいないんですよ」と尹さんは強調する。

「自己否定してくる声も、本当は嫌なことを言い続けるのがしんどいかもしれないじゃないですか。自分は自己否定の声の被害者なんだと思っていても、実はその声に非難する役割を負わせているという可能性もあります。その声の言い分を聞くのが、最初の対話なんじゃないでしょうか」

 自己否定する声は自分自身の声のように感じるかもしれないが、元をたどれば、親などから「こうしなければいけない」と言われてきたことの象徴だという。

「今でもその声は『こうしなければ家族や社会で居場所がなくなる』と思い続けて、よかれと思って言っているけれど、それが自分にとっても、その声にとっても窮屈になっているわけじゃないですか。そんな窮屈な役回りをさせられている人の言い分を聞かないというのは、ネグレクトですよ。

 自己否定の声をなくすことが『問題解決』と呼ばれがちですが、もしあなたが『あなたは問題だから消えてください』と言われたらどうでしょう? 嫌ですよね。嫌なことを自分にしているんです。だから、自己否定の声をなくそうとするのは問題解決じゃないし、かえって問題を大きくするだけです」

 自己否定の声に対して、「理由は何だ」ときつく問いただしては台無しだ。目の前に困っている人がいると考えれば、「どうしたの?」というような優しい聞き方になるはず。「自分の内側のいろんな声が聞けるということが、外側の声を聞けるということにもつながると思うんですよね」と尹さんは語る。

 本書の中では、子どもの頃、父親への恐れから「私という存在は必要ないのではないか」とまで感じていたとつづられている。こういった自身の内なる声とはどう付き合ってきたのだろうか。

「僕も無視していましたよ。無視することが強くなることだと思っていました。でも、『やりたくないことをやらなきゃいけないと思う』のは自分の欲求じゃないなと気がついたんです。居心地がよくないことをやり続けるのって、おかしいじゃないですか」

悩みの「設定」を知る

 インタビューセッションでは、主に相手が抱える問題や悩みについて聞いている。悩み相談というと、いっそう共感かアドバイス(=ジャッジ)で応えがちだが、尹さんはどのように相手の悩みと向き合っているのだろうか。

「本人が悩みにこだわっている場合、僕は、そこにはその人の解釈が入っているんじゃないかなと思うんです。まるっきり嘘というわけじゃないですよ。でも、『悩みのストーリーが劇的になっているのはどうしてか』を聞いていくと、起こった事実に対して自分でナレーションやBGMをつけている場合があるんです。そういった設定を全部オフにしていくと、つらいと思っていた出来事が違うものとして見えてきます。

 被害を受けた事実と、被害者であり続けているという状態は違います。昔受けた傷は今の傷じゃないのに、今もうずくということは、そうさせている設定が自分の中にあるということです。その設定は何なのか。『良い・悪い』『私が弱いから......』というような評価なしに、ただ事実を見ていくことが大事だと思います」

 「自分が生み出したストーリーに巻き込まれていた」ということがわかると、そのストーリーを選ばなくてもいいし、選んでもいいということに気がつける。渦中から抜け出し、選択ができるようになることが重要だという。

 インタビューセッションに訪れるのは、9割が女性だ。社会の中で、女性は「こうしないといけない」「これを言ってはいけない」という抑圧に遭いがちだ。「それでもみなさん、自分のことは自分で決めたいということをどこかで認めているんです」と尹さんは語る。多くの人が、セッションの中で「自分で決めていいんだ」という手応えを掴んで帰っていく。

 インタビューする時は相手と目を合わせるそうだが、自ら話す尹さんは、テーブルに視線を落として背中を丸め、一つ一つ言葉を選んでいた。人が本当の話をする時は、こんなふうに胸元に大事なものを抱えているように話すのかもしれない。

■尹雄大さんプロフィール
ゆん・うんで/1970年、神戸市生まれ。テレビ制作会社勤務を経てライターになる。主な著書に『つながり過ぎないでいい』『さよなら、男社会』(亜紀書房)、『異聞風土記』(晶文社)、『体の知性を取り戻す』(講談社現代新書)など。身体や言葉の関わりに興味を持っており、その一環としてインタビューセッションを行なっている。



   
  • 書名 聞くこと、話すこと。
  • サブタイトル人が本当のことを口にするとき
  • 監修・編集・著者名尹雄大 著
  • 出版社名大和書房
  • 出版年月日2023年5月 8日
  • 定価1,870円(税込)
  • 判型・ページ数四六判・264ページ
  • ISBN9784479394051

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