本を知る。本で知る。

詩とお風呂。2つをつなぐ、意外な共通点はどこにある?

(企画名)Bathing & Poetry

 ナチュラルコスメブランドLUSH(ラッシュ)は、2023年7月21日から、バスタイムと詩をかけ合わせたプロジェクト「Bathing & Poetry」を実施している。コンセプトは「詩を浴びよう 創ろう シェアしよう」。「詩を浴びる」ことでウェルビーイングを感じる新しいお風呂の体験を提唱しており、店頭で配布されるカードや特設サイト上の詩を読んで、自分で詩を作って応募するという、詩のリレーをムーブメント化させることを目指した取り組みだ。

 2023年7月28日、LUSH 新宿店で「Bathing & Poetry」のトークセッション&ワークショップが開催された。登壇したのは、ラジオでの朗読や歌詞提供、海外公演などの活動もしている詩人の菅原敏さん、高円寺にある1933年創業の老舗銭湯「小杉湯」三代目の平松佑介さん、三軒茶屋の本屋&ギャラリー&カフェ「twililight(トワイライライト)」を営む熊谷充紘さんの3人。イベントの模様はYouTubeでライブ配信もされた。

LUSH 新宿店 イベント会場

「社会的な自分」を洗い流す

 トークセッションのテーマは「詩を浴びる」。菅原さんは普段、「もし詩が水だったら、どんな器にそそぐことができるのか」というコンセプトで本やアートなどを詩の器と捉えて創作をしている。「Bathing & Poetry」は、まさに自らと親和性が高いプロジェクトだという。

菅原敏さん
菅原敏さん
「湯船に詩をそそぐ」ということですよね。詩を読む時間と、お風呂にゆっくり入る時間は似ているように感じます。「詩を浴びる」ことは、自分自身に向き合う時間でもあれば、いつも身にまとっている常識や忙しさを洗い落とす時間でもあると思います。(菅原さん)

 一方の平松さんは、銭湯と詩は一見かけ離れているように思えるが、銭湯を経営する上で「言葉」は大事にしているものの一つだと語った。

平松佑介さん
平松佑介さん
銭湯は、人と人だけでなく、場所と人とのコミュニケーションが大事な空間だと思っています。小杉湯でふと目に入ったポスターやポップに心が軽くなった、力をもらったというお客様の声もよく聞くんですよ。(平松さん)

 熊谷さんが手がけるtwililightでも、詩集に力を入れている。詩を読み始めたのは、高校生頃からだそうだ。

熊谷充紘さん
熊谷充紘さん
僕もお風呂の解放感や、素の自分に戻れる気持ちよさが大好きなんですが、詩にもそういう効果があると思います。世間体やポリコレを身にまとった社会的な自分を、詩を浴びることで洗い流せるというか。(熊谷さん)

「初めての体験でした」

 ワークショップは、菅原さんが「Bathing & Poetry」のために書き下ろした「LUSHの詩」(全文は「Bathing & Poetry」特設サイトに掲載)を中心におこなわれた。まず菅原さんの朗読を聴き、参加者とオンライン視聴者が、頭に浮かんだ情景や感情を漢字1文字で表した。

ワークショップの様子

 平松さんが書いた漢字は、「水」。

そのまんまだろって感じですが(笑)、小杉湯の水風呂が浮かんだんです。90mの地下水をかけ流しで出していて、まさに水脈(詩の冒頭「水から水へ/すべて浴室は水脈でつながり」)なんですよ。水風呂に入って気持ちいい時の自分を思い浮かべて、「水」にしました。(平松さん)

 熊谷さんが書いたのは「震」。「水の中にいると、震えによって自分がほどけていく」感覚をイメージしたそうだ。参加者からは「天」「今」「続」「旅」「流」などさまざまな漢字が挙がった。

 続いて、「今書いた漢字1文字に他の参加者から挙がった漢字3つを組み合わせて頭に浮かんだ情景と合う四字熟語を作ってみてください」というお題が。さらさらとペンを走らせた平松さんは、「天水続道」。1字ずつ熟考した熊谷さんは「震解懐続」という4文字を選んだ。他にも、参加者からは「香水包続」「白溶旅天」など、個性的な四字熟語が集まった。会場中で掲げられた四字熟語に、菅原さんからは驚いたような笑顔がこぼれた。

自分の書いた一篇の詩を、みなさんに翻訳していただくというか。みなさんが私の詩を浴びて、浴びたみなさんの詩を今度は私が浴びるという、初めての体験ができました。掲げられる紙を見て「この1枚1枚が俺の書いた詩なんだよな......」と思うと、まるでみなさんが私のイタコになったようですね。(菅原さん)

 頭の中の情景を表現すれば、漢字1文字でも詩になる。菅原さんの詩を出発点として、参加者全員がお互いに詩を浴びせ合うような、プロジェクトのコンセプトにぴったりな時間になった。

 YouTubeのLUSH JAPAN公式チャンネルに、イベントのアーカイブ映像が残っている。

 Bathing & Poetry特設サイトでは、9月29日(金)まで詩の募集をおこなっている。テーマは「お風呂に入った時に読みたい、誰かの明日を少しよくする言葉」だ。一般から応募された詩のカードは、2023年10月20日から配布が始まる予定だ。現在サイトでは、LUSHスタッフが作った135篇の詩が公開されている。そのうち12篇はカードになり全国のショップで配布されている。
 Bathing & Poetry特設サイト:https://lush-bathingpoetry.com/

登壇者の集合写真
登壇者の集合写真

 またLUSH 新宿店2階には、菅原さんによる詩の朗読が聴けるスペースが2023年9月13日まで設置されている。朗読音声は、LUSH JAPANのYouTubeチャンネルでも聴くことができる。

LUSH 新宿店2階 朗読が聴けるスペース
LUSH 新宿店2階 朗読が聴けるスペース

 熊谷さんが営むtwililightでは、「Bathing & Poetry」のインスタレーションスペースが2023年8月28日まで設置されている。さらに、LUSHの「四季の一服」というバスボムセットに合わせた12冊の詩集を熊谷さんが選び、販売している。LUSH新宿店1階でもその一部が展示されている。

LUSH 新宿店1階 「四季の一服」コーナー
LUSH 新宿店1階 「四季の一服」コーナー

■菅原敏さんプロフィール
すがわら・びん/詩人。2011年、アメリカの出版社PRE/POSTより詩集『裸でベランダ/ウサギと女たち』をリリース。以降、執筆活動を軸にラジオでの朗読や歌詞提供、欧米やロシアでの海外公演など幅広く詩を表現。 近著に『かのひと 超訳世界恋愛詩集』(東京新聞)、『季節を脱いで ふたりは潜る』(雷鳥社)。東京藝術大学非常勤。

■平松佑介さんプロフィール
ひらまつ・ゆうすけ/昭和8年に創業、国登録有形文化財の老舗銭湯「小杉湯」の三代目。空き家アパートを活用した「銭湯ぐらし」、オンラインサロン「銭湯再興プロジェクト」、街と企業との様々なコラボレーションを通して、銭湯を中心に広がる社会関係資本を構築中。2020年3月に複合施設「小杉湯となり」をオープン、2024年4月には「小杉湯原宿(仮称)」を開業予定。

■熊谷充紘さんプロフィール
くまがい・みつひろ/三軒茶屋で本屋&ギャラリー&カフェ『twililight』を営む。出版社としても、安達茉莉子『世界に放りこまれた』、レアード・ハント/柴田元幸訳『インディアナ、インディアナ』、畑野智美『トワイライライト』などを刊行。本と出会う場を広げるべく、イベント企画や選書、執筆も行う。屋上でぼんやりする時間が好き。





 


  • 書名 (企画名)Bathing & Poetry
  • 出版社名(主催)LUSH

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