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「おかわり」は刺激多め。ほろよい気分で読みたい、お酒のアンソロジー

Yukako

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ほろよい読書 おかわり

「今夜はお疲れ様な自分を癒す、とっておきの一杯を」

 白の背景に赤が映える。グラスの中で揺れるワイン。自分のために注がれた一杯のようで、手を伸ばしたくなる。

 ワインの本かと思いきや、本書『ほろよい読書 おかわり』(双葉社)は「お酒」をテーマにした短編小説集だった。2021年に刊行された『ほろよい読書』の第2弾。今回も5人の女性作家によるアンソロジーとなっている。

 ノンアルコール・カクテル、ジン、テキーラ、日本酒......。恋、復讐、父の死と継母との再会、元彼......。飲むお酒も抱える事情もそれぞれ。次はどんなお酒(物語)が出てきて、どんな味がする(気持ちになる)のだろうかと、わくわくしながらページをめくった。

■目次
「きのこルクテル」 青山美智子
「オイスター・ウォーズ」 朱野帰子
「ホンサイホンベー」 一穂ミチ
「きみはアガベ」 奥田亜希子
「タイムスリップ」 西條奈加

きのこからはじまる恋

 ちょっと不思議なタイトルの作品が多い。メニューを見てよくわからない名前の食べもの・飲みものに遭遇したときのような好奇心が湧いた。ここではまず、「きのこルクテル」を。

「『好き』という言葉を使わずに、好きという気持ちを伝えられるのが名文だ。(中略)僕はいつも、これを座右の銘にして原稿を書いている。」

 ライターの永瀬は、雑誌編集者から急遽、他のライターは忙しいからとバーの取材を依頼される。お前はヒマだろうと言われたようで傷ついたが、引き受けた。取材先のバーに行くと、そこに女性のバーテンダーがいた。表情はむすっとしていて無愛想だが、シェーカーを振る姿がなんともなまめかしく、思わず見惚れてしまう。

 雑談する中で、彼女は30歳(永瀬より5つ上)で、趣味はきのこ栽培とわかった。「僕もきのこ育ててみようかな」と永瀬がドキドキしながら言うと、「初めて菌友(キンユウ)ができるかも」と彼女は笑った。

 少しでもお近づきになるべく、栽培キットを購入した永瀬。じつは下戸であること、彼女を「好き」という気持ち、その両方を隠しながら、きのこも恋も育てていく。

「ルクテル」に込められた意味を知ったとき、なんて素敵なネーミングだろうと思った。ライターとしても男としても自信がない。いつも誰かの代役で、積極的に自分が選ばれることはない。くすぶり、モヤモヤしていた永瀬に、ある変化が――。

気まぐれからの出会い

 お次は、ノスタルジックでミステリアスな雰囲気に惹き込まれた「タイムスリップ」を。

「どうしてこの電車に乗ってしまったのか、よくわからない」――。ある夜、葉月はいつもと違う電車に揺られていた。真っ暗な車窓から見えた鬼灯(ほおずき)色の提灯(ちょうちん)が気になり、知らない駅で降りる。このとき、「昭和にタイムスリップしたような錯覚」を覚えた。

 その店は古びていて、昭和酒場の風情だった。インテリ風の眼鏡男子と若い板前さんに迎えられ、シュワシュワした日本酒、柿のクリームチーズ和え、掌サイズの椎茸の天ぷら、聖護院カブのかぶら蒸し......と、お酒も食事も楽しんだ。

 じつはこの日、葉月は元彼のことでモヤモヤしていた。4年半付き合い、結婚話まで出たのに別れてしまった元彼。家にまっすぐ帰りたくなくて、気まぐれを起こし、なんとなくこの店にたどり着いたのだった。

「つき合っているあいだは、お互いふわふわして、空に浮かんだ二つの風船のようだった。風に流されて、くっついたり離れたりしながらも、五年近くも一緒にいた。なのに結婚ときいたとたん、それぞれの風船に結ばれていた紐(ひも)に気づいた。紐を辿(たど)って地上に着いてみると、互いの場所がとんでもなく離れていた――たとえて言えば、そんな感じだ。」

 とりわけ、ラスト数ページが秀逸だった。それまでのなごやかなムードから一転。「え、何?」「まさか?」......と、世界がひっくり返された感覚になった。

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 アンソロジーは、これまで読む機会のなかった作家と出会い、読書の幅をぐっと広げてくれる。

 本書の主人公たちは、淡い恋心、強烈な復讐心、長年のわだかまりなどを抱えながら、お酒を飲む。じわ~っと染み込む感じ、クーッと効く感じ、めまいがする感じ。お酒の口当たりと同じように、作品の味わいもいろいろ。ただ共通して、そのときお酒を飲んだ経験が、次のフェーズに進む力になっている。

 20代のころ、葉月のように会社帰りに気まぐれで街をふらっとさまよったこと、彼と別れた翌日に参加した職場の飲み会で醜態をさらしたこと、一緒にお酒を飲んだ人たちの顔を思い出した。もう何年も居酒屋にもバーにも行っていない者としては、こういう楽しみもあったなと思い出させてもらった。心と一緒に、味覚も嗅覚も刺激される1冊。


■青山美智子さんプロフィール
あおやま・みちこ/1970年、愛知県出身。2017年に刊行したデビュー作『木曜日にはココアを』で宮崎本大賞、21年『猫のお告げは樹の下で』で天竜文学賞を受賞。同年『お探し物は図書室まで』、22年『赤と青とエスキース』、23年『月の立つ林で』が本屋大賞ノミネート。

■朱野帰子さんプロフィール
あけの・かえるこ/1979年、東京都生まれ。2009年『マタタビ潔子の猫魂』でダ・ヴィンチ文学賞大賞を受賞しデビュー。15年『海に降る』がWOWOWでドラマ化、18年に刊行した『わたし、定時で帰ります。』がTBSでドラマ化に。

■一穂ミチさんプロフィール
いちほ・みち/2007年『雪よ林檎の香のごとく』でデビュー。22年『スモールワールズ』で吉川英治文学新人賞を受賞。同年『光のとこにいてね』が直木賞候補、23年本屋大賞ノミネート。

■奥田亜希子さんプロフィール
おくだ・あきこ/1983年、愛知県生まれ。2013年『左目に映る星』ですばる文学賞を受賞しデビュー。22年『求めよ、さらば』で本屋が選ぶ大人の恋愛小説大賞を受賞。

■西條奈加さんプロフィール
さいじょう・なか/1964年、北海道生まれ。2005年『金春屋ゴメス』で日本ファンタジーノベル大賞を受賞しデビュー。12年『涅槃の雪』で中山義秀文学賞、15年『まるまるの毬』で吉川英治文学新人賞、21年『心淋し川』で直木賞を受賞。




 


  • 書名 ほろよい読書 おかわり
  • 監修・編集・著者名青山 美智子、朱野 帰子、一穂 ミチ、奥田 亜希子、西條 奈加 著
  • 出版社名双葉社
  • 出版年月日2023年5月13日
  • 定価759円(税込)
  • 判型・ページ数A6判・304ページ
  • ISBN9784575526660

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