幼馴染み・岡崎さんとのちょっと特殊な友情を描いた自伝的漫画『岡崎に捧ぐ』(全5巻、小学館)がベストセラーとなった山本さほさん。
4月26日に発売された最新刊『てつおとよしえ』(新潮社)では、『岡崎に捧ぐ』で描けなかった山本さんの「あの頃といまの家族の話」を描いている。
マイペースで楽観的な父・てつお。過干渉で心配性な母・よしえ。心配ばかりかけている末っ子の「私」。寝たフリをしておんぶされた父のあたたかい背中。母の過干渉が嫌でイラ立っていた思春期。そして、おばあちゃんの手にそっくりになってきた母の手......。
両親が70歳を過ぎたいま、山本さんは思う。「『いつか』が来る前に、私は何ができるだろう?」
本書は19話を収録。山本家ならではのユニークなエピソード(「コンピューターおじいちゃん」になりそうなほど機械好きの「オタクなてつお」など)もあれば、「これ、うちじゃん...!」とひたすら共感したエピソード(母から送られてくる「可愛いメールコレクション」など)もある。
ここでは、世話焼きでとっても過保護な母・よしえのエピソードを紹介しよう。
山本さんが脱いだ服を洗濯機に入れにいくと、「お母さんがやっとくから2階の廊下に置いといて!!」と言う。そのとおりにすると、今度は「部屋の前に置いといてくれれば大丈夫だから!!」と言い、しまいには「部屋で脱いで置いといてくれたら回収しに来るから!!」と言う。山本さんと洗濯機の距離を、なぜかどんどん離そうとしてくるのだ。
「母といると、甘やかされてどんどんダメ人間になっていくような気がして、不安になるのだった...。いい年してこれでいいのだろうか...」
山本さんは3人きょうだいの末っ子。いたずらが大好きで先生に怒られてばかりの、一番手のかかる子どもだった。
「私も大人になるにつれ、母を心配させているという状況をとても申し訳なく思っており...いつか母を安心させたい...という夢を持つようになった。」
やがて29歳でまんが家になった山本さん。これでようやく「すごいじゃない 立派ね~!!」と安心してもらえると思ったが、母の反応は違った。「大丈夫なの?」「人気あるの?」「本は売れるの?」......逆に、母の心配事を増やしてしまった。そこで山本さんは、ある「恩返し」を思いついて――?
あたたかみのある素朴なタッチのイラスト。日常に面白いことを見つける観察眼と表現力。数々のエピソードからうかがえる著者の誠実な人柄。初めて読む人も、あっという間に親近感を持てるはず。そして1度読んだら、また読みたくなる(会いたくなる)。それが山本さんの作品の魅力の1つだと思う。
ほっこりして、たくさん笑えて、ときにじんとくる「家族漫画」。本書に描かれている山本家の話を読みながら、自分の家族のあの頃といまを思った。
■『てつおとよしえ』あとがきより
まんが家になってからありがたいことに色んな作家さんとお話をする機会があり、気付いたことがあります。
みんな自分の作品に一つ「テーマ」みたいなものを持っているということです。
(中略)
たくさんの作品を描いている作家さんも、どこか一貫している「テーマ」があって、それが"その人の作品らしさ"になっている気がします。私はその「テーマ」こそ、その人の人生の一番大きな部分を占めているものなのではないかと思うのです。
それでいうと私はきっと「子どもから大人になるまでの葛藤」が、それにあたります。私は自分の作品でどんな話をどんな角度で描いても、大体いつも「大人になれないこと」を嘆いてしまうからです。
新潮社公式サイトでは、本書の試し読みができる。
■山本さほさんプロフィール
やまもと・さほ/1985年生まれ。漫画家。2014年に幼馴染との友情を描いた自伝的漫画『岡崎に捧ぐ』がnoteで大きな話題となり、漫画家デビュー。著書に『この町ではひとり』『山本さんちのねこの話』『無慈悲な8bit』『きょうも厄日です』などがある。
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