私が大好きだった母親は、もういない。
もしも家族が、陰謀論者になってしまったら――。
KADOKAWAから発売された『母親を陰謀論で失った』(原作:ぺんたん、漫画:まきりえこ)は、noteで話題となった記事「母親を陰謀論で失った」に大幅な脚色を加えてコミック化したもの。親子愛の限界を問う、衝撃のセミフィクションとなっている。
本作は「シリーズ立ち行かないわたしたち」の第1弾。「シリーズ立ち行かないわたしたち」とは、思いもよらない出来事を経験したり困難に直面したりと、ままならない人生を描くコミックエッセイの新シリーズだ。
ナオキは昔から母親を尊敬し、大好きだった。人生で一番古い記憶も、母親との思い出だ。よく晴れた海沿いを、一緒にラジカセを聴きながら歩いた。ナオキはのんきな性格で、あたたかな雰囲気の中で、ゆるく人生を送りたいと思っていた。
母親は昔から人一倍正義感が強く、優しい人だった。ナオキが小学生のころ、日本語がうまく話せない外国人の同級生がいて、「人一倍優しくしなさい」と教えられた。震災が起きたときは、積極的に寄付をしていた。捨て猫や捨て犬を支援するボランティアをしていたこともあった。
ナオキは東京で会社員をしながら、妻と暮らしている。両親は地方暮らし。母親は東京へよく遊びに来ていたが、コロナ流行後はチャットや電話をするくらいになった。そんな2020年初夏のある日、母親がチャットで動画を転送してきた。見てみると、かなり怪しい内容だった。
「政府はコロナを使って我々をコントロールしようとしている!」
「マスクをしていても感染対策には無意味!」
「コロナは意図的にばらまかれている」
「このお茶を飲めばコロナを無毒化できます!」
「こんな情報 誰が信じるんだよ...(笑)」と、思わず失笑するナオキ。同時に、まさか母親は本気で信じているのだろうかと不安になった。ただ、このときは深刻に考えていなかったし、本気なわけがないと信じたかった。
しかし、動画は1日2回ほどのペースで送られてくるようになり、日に日に過激な内容になっていった。登場人物は、断定口調で根拠もないことを謎の上から目線で話す。ナオキは仕方なく見ていたが、あまりにも無茶苦茶でどっと疲れる。
母親はとても心配性な人だ。「怪しい動画を見ることで気晴らしになるなら」と何も言わずにいたが、次第に看過できなくなっていった。
半年ほど経ったころ、妹にも動画が送られていたことが明らかに。「母親をどうにかしないと」と思ったナオキは、父親に相談する。「ブームみたいなもんだろう」とあっさりしている父親に、「ブームどころじゃないって まるで陰謀論者だよ!」とつい言ってしまう。
父親は子どもたちが心配していることを母親へ伝えるという。「母さんが目を覚ましてくれたらいいけど」と淡い期待を抱くナオキ。その夜、母親から電話がかかってきた。嫌な予感がしたが、スマホを手に取る。
母親は聞いたこともないような言葉遣いで、耳がキーンとするほどの大声で怒鳴ってきた。戸惑うナオキに、ものすごい剣幕でまくしたててくる。
「これだけ真実が世の中に出てるんだぞ!」
「この期に及んでまだ陰謀論って言うやつはバカなんだよ!」
「頭の中がお花畑なんだよ!」
「こっちはな!! 全部調べてんだよ! 裏側まで見たうえで言ってんだ!」
「......母さん マジでやばいかも」。ナオキはようやく、事態の深刻さを直視する。
「母親が信じる陰謀論の正体とはなんなのか?」「陰謀論を信じている人はどんな人なのか?」「なぜ母親は陰謀論を信じてしまったのか?」――。真相に迫る過程を息子の視点からリアルに描いた、胸をえぐられる作品。陰謀論を信じる母親に揺り動かされる家族。引き裂かれた親子の絆は、元に戻すことができるのか。
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