めでたき人のかずにも入(いら)む老のくれ 芭蕉
どんな人にも、「老い」はやってくる。この俳句を詠んだとき、芭蕉は「初老」と呼ばれる数えの42歳。当時は平均寿命が短く、長寿は「めでたい」ものだったが、現代はどうもめでたいだけでは済まない。
作家たちは「老い」をどう捉え、どう描いてきたのだろうか? 『作家の老い方』(草思社)は、作家たちが「老い」について綴った33のエッセイ・小説・詩歌をおさめたアンソロジーだ。
谷崎潤一郎や萩原朔太郎などの文豪から、あさのあつこさん、角田光代さん、筒井康隆さんなどの人気作家まで、時代もジャンルも幅広く収録している。一部をご紹介しよう。
角田光代「加齢とイケメン」より
私たちの世代は往生際が悪い。加齢のことである。自分がおばさんだと、どうも認めない傾向がある。自分を顧みたってそうだ。二十代の子をターゲットにした洋服屋で、恥ずかしげもなく服を買う。三十代前半の人たちが読む雑誌を平気で読むし、話題のレストランに我先に出かけようとする。
(中略)
そんな私が、自分の年齢をじつに生々しく思い出すときがあって、それは、駅の階段を駆け上ったときでも、固有名詞がなかなか思い出せないときでもなくて、イケメンと言われる俳優やタレントを見たときだ。わからないのである、その良さが。
遠藤周作「老いて、思うこと」より
皆が芥川賞をとる前後、月に一度は必ず銀座のはせ川という小料理屋の二階に集って騒いだものだ。あの三十代の初めの頃がつい昨日のように蘇ってくる。療養所から出たばかりの吉行も必ず姿を見せた。その彼の顔に白い布がかぶさっている。
(中略) 私たちのグループのなかでは吉行に続いて死ぬのは、おそらく私であろう。長く生き残るのは三浦朱門か、阿川弘之だろう。
しかし友人たちが一人また一人死んでいくと、私の実感は「とり残された」というものである。
昔は死がこわかった。真夜中、目をさまし、自分の死を思うと体が震えるほど怖しかった。
しかし七十代になると、死はそんなに怖しいものではなくなり、死ぬ前に苦しまなければと願うようになった。文字通り「ポックリ」を憬れるのである。
「あるある」と共感するもよし、これからやってくる年齢の「老い」に思いを馳せるもよし。身に沁み入る「老い文学」の世界へようこそ。
〈作家一覧(収録順)〉
芭蕉/あさのあつこ/角田光代/向田邦子/井上靖/河野多惠子/山田太一/古井由吉/佐伯一麦/島田雅彦/谷崎潤一郎/筒井康隆/金子光晴/萩原朔太郎/堀口大學/杉本秀太郎/富士川英郎/吉田健一/松浦寿輝/谷川俊太郎/室生犀星/木山捷平/吉行淳之介/遠藤周作/吉田秀和/河野裕子/森澄雄/中村稔/穂村弘/倉本聰/鷲田清一/中井久夫/太田水穂
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