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優れた血統を残し、劣った血統をなくす。世界を動かした「優生学」の正体とは

  • 書名 14歳から考えたい 優生学
  • 監修・編集・著者名フィリッパ・レヴィン、斉藤隆央翻訳
  • 出版社名すばる舎

優れた血統を残し、劣った血統をなくすことで、人類全体の質を向上させる。
この「優生学」という思想は、かつてナチス・ドイツの政策に取り入られ、大量虐殺を招いたことから、第二次世界大戦後からは「タブー」として扱われている。

では、「優生学」の思想は消失してしまったのか? その問いに対して「イエス」とは言い切れないだろう。姿かたちを変えて、今なお、この世界に根強く残っている。
20世紀前半、優生学は国家の暴走の一端を担った。それをまた起こさないためにも、私たちは「優生学」とは何たるかを知る必要がある。

『14歳から考えたい優生学』(フィリッパ・レヴィン著、斉藤隆央訳、すばる舎刊)は、優生学の成り立ちや広がり、この思想が何を生んできたのかを解説した一冊だ。「優生学」とは一体なんなのか? その歴史を見ていこう。

■20世紀はじめに急激な成長を遂げた「優生学」

優生学はナチス・ドイツだけで広がった思想ではない。欧米に限らず、中南米、中東においても、20世紀はじめに急激な広がりを見せていた。優生学の推進に特化した研究所では、政府や当時の慈善団体から資金があたえられ、社会福祉にかかわる多くの法律の基礎も提供していた。

つまり、当時、優生学は人々の生活と強く結びつき、まさに国家プロジェクトの一部を担っていたともいえる。

「優生学(eugenics)」という言葉が誕生したのは1883年のこと。イギリスの統計学者フランシス・ゴールトンが考案した。ゴールトンは、人間の遺伝の操作を動物の「育種」(品種改良するような遺伝的試みのこと)になぞらえ、それによって人類を改良することを夢見ていたという。

20世紀初頭、このゴールトンの考え方は人気を集めていた。その影響を受けた最初の社会政策は「精神障害者」の結婚を禁じ、彼らの断種(不妊手術)を認める法律の制定だった。さらにそこから20世紀前半のうちに、優生学は、結婚や子育て、犯罪、さらに移民から保健医療まで、人々の暮らしにかかわる多くの領域に入り込んでいった。

■「優生学」は国際的な運動だった

優生学の広がりは西洋諸国に留まらないということは前述した通りだ。著者が「優生学のとりわけ興味深い特徴の一つは、ほぼ全世界を引きつけたこと」(p.24より)と述べているように、この思想は世界で注目を集めた。

移民の割合が高い英語圏の国々では、優生学は人種による移民制限の手段となり、知能が注目されるようになった。インドや香港のように、全体的な人口の増加を抑えたがっていた場所では、優生学はほぼ産児制限(避妊)に主眼が置かれていた。また、スウェーデンでは、精神障害者の強制断種が、妊婦健診や奨励金、児童福祉といった手厚い社会福祉と共存していたという。

とりわけ優生学が顕著な役割を果たしたのは、新たに独立したばかりの国々であった。オスマン帝国やハプスブルク帝国が第一次世界大戦後に崩壊すると、その後に独立した国々では、優生学的改良で自国民の健康を向上させることで、国際的な地位を高められるのではないかと考えられたのだ。

また、優生学といえばナチズムを思い起こす人も多いだろうが、優生学とナチズムを混同するのは誤解だと著者は指摘している。ナチスがみずからの目的をなしとげるために優生学と結びついたのは確かだが、彼らが行ったことは優生学のはるか射程外に及んでおり、当時ナチスではない優生学者たちは不安げに距離を置いていたという。

■第二次大戦後、「優生学」はどうなったのか

1945年以降の優生学の立ち位置を決定づけたのは、1945年から49年にかけて行われたニュルンベルク裁判といえるだろう。ここでナチスの軍人や実業家、法律家、医師たちが裁かれ、優生学はナチズムと結びついたイメージとなった。

一方、優生学者たちは、ナチスに利用されて失墜した名誉を回復すべきだと考え、その概念や原理は滅びることなく、むしろつくりなおされ、言い換えられた。

1950年代から1960年代にかけては、地球全体の人口抑制が新たに政治的関心を集めた。たとえばアメリカでは公共や民間の金が産児制限の計画や研究につぎこまれ、1966年にはインドの首相となったインディラ・ガンジーが、600万人への避妊具(IUD)の挿入と、123万人への断種を行うことを、家族計画の目標に据えた。

中国では一人っ子政策が実施され、1995年には母子健康法を制定。断種や恒久的な避妊を遺伝病患者の結婚の条件とし、遺伝的欠陥をもつ胎児の中絶を許可するもので、今でもこの法律は存在している。

 ◇

このように、現代に至るまで優生学は続いている。ただ、私たちがいだいているイメージよりも、非常に多様な活動であり、さまざまや見かたや立場があることが本書からうかがうことができる。そして、著者は「実際にすることについてはかならずしも善良でないにしても、意図という点ではまさしく善良」(p.251より)と述べるのである。

タイトルに「14歳から」とあるため、中高生からが読者対象となるものの、「内容はやさしいものばかりではありません」(p.6より)と訳者の斉藤氏はつづっている。

人類をより良いものにするという目的から生まれた優生学がどんな道を辿ってきたのか。その歩みを追いかけることのできる一冊である。

(新刊JP編集部)

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