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大学教員と学生の関係構築は「最初の一ヶ月」で決まる?

  • 書名 文庫改訂版 学生の「やる気」の見分け方 経済学者が教える教育論
  • 監修・編集・著者名中村勝之
  • 出版社名幻冬舎

学生たちの考えていることが分からない。モチベーションが高いのか低いのか、見極められない。もしかしたら学生が大学を辞めてしまうかも。

教える立場である教員にとって、学生がどんな気持ちで授業や講義にのぞんでいるのかはとても大事なところだろう。
では、学生の「やる気」を計る手段はないのだろうか?

桃山学院大学経済学部教授の中村勝之氏が執筆した『文庫改訂版 学生の「やる気」の見分け方 経済学者が教える教育論』(幻冬舎刊)は、中村氏の実践例や蓄積したデータをもとにしながら、学生の「やる気」を見分ける考え方がつづられている。
中村氏へのインタビュー後編では、学生との関係構築の方法やリモートでも学生の変化を捉える手法について話を聞いている。

(新刊JP編集部)

インタビュー前編を読む

■学生との関係構築、勝負は「最初の1ヶ月」

――第4章「除退予備軍をあぶり出せ!?」では、除退(中途退学者)予備軍の傾向を分析していますが、予備軍を認識できたとして、学校・教員側はどんな対応をすべきでしょうか?

中村:予備軍認識の前段階として、まずは、ゼミなどの2~30人単位の授業であれば、開始1ヶ月以内でどれだけ彼らと距離を詰められるかが重要ですね。これは小学校から大学まで一緒です。そのクラスの先生がちゃんと学生たちを統率できるかは、最初の1ヶ月にかかっています。

――確かに、最初の1ヶ月は皆、講義にちゃんと出る傾向があると思います。

中村:その1ヶ月の間に、大学に行こうと思わせられなければ、除退予備軍になりえます。4月から講義が始まり、早くてGW明けくらいですかね。大学生に限って言うと、ファッションがごっそり変わったりするんです。髪の毛をいきなり緑にしてきたりね。

そういう学生には「そんなんでもいいから学校においで」と話をするんですけど、だんだんと来なくなる。それはしょうがないので、もう追いかけません。

これは本の中には書けない僕の本音なのですが、教育学ってある種の先入観があるんですよ。それは教師たるもの、特定の子どもを「えこひいき」するなということです。でも、ありえないと思います。えこひいきは絶対にしてしまう。教員だって人間、人の好みはあるし簡単に変えられませんから。

えこひいきされているかどうかは、子どもたちも敏感なんですよね。だから、子どもたちから「えこひいきしてるでしょ」と言われたら、僕は正直に「してるよ」と言います。逆に「君が僕にえこひいきされたければ、えこひいきされるだけのものを見せろ」と。「それを検知できれば、僕はちゃんと君をえこひいきするよ」と正面切って言うわけです。

――なるほど。そう言うと学生は変わるのですか?

中村:頑張りますね。やっぱり、人間ってえこひいきされたいですから。成績評価も上がりますし。それは僕が自分はえこひいきする人間だということを自覚しているからこそ、言えることだと思います。

――コロナ禍になって大学の講義がリモートで行われているという話を聞きますが、中村先生の講義のやり方は変わりましたか?

中村:少なくとも僕が担当する講義は変わりません。僕は経済学でもベースのベースになる基礎理論を教えていて、極端な話、資料を配って「これを読んでおいて」で終わりなんです。それに簿記3級を教えていますが、これも同じですね。資料を配っておけば。私の講義スタイルはことごとくオンライン授業に合わない(笑)。

――レスポンスシートという点においては、変化はありますか?

中村:オンライン上で書いてもらいましたが、結果は手書きとあまり変わらないですね。

――手で書くことよりも、テキストの内容の方が重要ということですね。

中村:そうですね。また、テキストの内容に関しては、1個1個の設問と回答に対して全部フィードバックをするのですが、それで書き方が変わるのもだいたい2割です。

基本的には教育実践の場で、学生や受講生をどれだけ動かせるかというのは、2割を目安に考えたらいいのではないかと思います。2割がこちらの意図通りに動けばOKと。

――2割だと少ないような気もしますが...。

中村:これは、たとえば小学校で6年間同じ先生で2割だったら困るんですよ。1年間同じ先生で2割。そこで担任が変わって目線が変わるから、そこでまた2割。これが6年間積み重なったら、1人ひとりの児童が必ず誰かの目に留まるはずです。

これが中学・高校になると、教科担任制になる。生徒数は増えるけど見る先生も増えるから、1人の先生につきしっかり見る生徒は2割で十分なんです。大学になったら、さらに見る人が増えますよね。学校教育って組織でやる部分もありますから、1人ひとりの2割が重なっていけば、だいたいの児童、生徒、学生は網羅できるようになっているんです。

ただ、もちろんそこから抜け落ちる子もいます。大学だとそれが除退者ですよね。それはもうしょうがない。次のステージで見てくれる人とめぐり会えることを願うばかりです。

――『学生の「やる気」の見分け方』ですが、どのようなポイントが読みどころでしょうか。

中村:あえて選ぶとすると、第4章の除退予備軍をあぶり出す章ですね。この章では、学生が作成したシートの記述内容をテキストマイニングでデータ化して、そのデータが中途退学の可能性のある学生を発見できるかどうか検討しています。

この分析の特徴は、通常だと単語同士の繋がり具合、いわゆる共起関係の分析だけで終わるんですけど、僕はさらにテキストデータと、そのテキストを書いた人間の属性データを組み合わせて、新たなことが言えないかを探っています。大風呂敷を広げると、テキストデータの分析の可能性を広げたということですね。

――本書の文庫版をどんな人に読んでほしいとお考えですか?

中村:怒りに任せて書いているので、正直なところ分からないんですよ(笑)。

ただ、たとえば中高生くらいのお子さんを持っている親御さんから、子どもが何を考えているのか分からないという質問があったとしたら、定期的にテストに書かれた字を追いかけなさいとアドバイスしますね。その字に変化があったら、取っ掛かりをつかむことができるはずです。子どもたちの書く字は重要な情報源ですから。

教員を目指そうとしている人たちには、いかにして教室を統率するか。厳格な成績評価基準をつくって、きちっと運用しましょうと。それがそのクラスを統率する手段だと。大学教員ですと、どういう風に講義をしようかという方法で、ルーブリック評価もあるし、アクティブラーニングであれば、この本に実践を書いているので参考にしてもらいたいですね。専門外の人間が単元構成まで書いたアクティブラーニングの報告って、あまりないと思います。

さらに学部長や学長といったレベルの人には、どうやって組織として教育体系を考えるかというヒントがこの中にあると思います。

この本は研究書ではありますが、想定される読者は案外広いと思います。今回は高校と大学が主な考察対象ですが、第5章だけでとらえたら幼稚園の先生や保育士さんも含まれます。各々の授業に落とし込むヒントにしてほしいですね。

(了)

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