自分の心は自分にしか分からないものだが、その一方で、自分にも分からないこともある。
身体は「もう無理をしないで!」とサインを発しているのに、その一方で無理をしてしまう自分もいる。それがひどくなると、うつという症状が出てくる。
『心は1分で軽くなる!』(自由国民社刊)の著者であり、臨床心理カウンセラーの石野みどりさんもうつに悩んだ経験を持ち、その経験を活かしてスクールカウンセラーとして学生たちの心の闇に向き合っている。
今回、新刊JPは石野さんに五月病のメカニズムや、ご自身の経験に基づくうつからの脱し方、そして気を病まない物事の考え方についてお話をうかがった。
後編のテーマは「うつからの脱し方」「燃え尽きないための方法」だ。
(新刊JP編集部/金井元貴)
■「できることが当たり前」ではない。
――本書の「はじめに」で石野さんが軽いうつに悩まれていたということが書かれていました。具体的にそのときのお話をお伺いしたいのですが。
石野:あの頃、離婚をしたんです。それで一人で食べていかないといけないということで、カウンセリング関連の会社を立ち上げたんですね。それで一人で頑張って経営をしていたんだけど、離婚っていうトラブルですごくストレスがかかっていたところに、一人で会社を立ち上げちゃったから、もう大変なんですよ。
カウンセリング関連の会社を経営しているのに、自分は人のことを考えている余裕もないわけで、抱えている荷物が重すぎてついに倒れちゃったんです。
それで本当に何もできなくなってしまって、当時はマンガも読めないしテレビも見られない。まったく頭に入らないんですよ。それでパニックにもなる。マンガは読んでいてもストーリーがつながらない。朝起きても、ずっと寝ているような感じで外にも出られないという状況でした。
――そんな状況だったのですか…。そこからどのように改善していったのですか?
石野:事業に失敗して借金を抱えているので、まずは家賃の安いところに引っ越さないといけない。それが環境を変えるきっかけになりました。生活習慣も全部変えて、太陽にあたるようにしたんですよ。歩かなくてもいいから、公園で日に当たる。あとは大好きなことしかない。
そういう風に少しずつできることを増やしていったという感じですね。うつは一気に治るものではありません。もし一気に治ったように見えるなら、それは躁鬱という別の病気です。うつはちょっとずつしか治らないので。
精神安定剤も山ほど飲んでいたのを少しずつ減らしていきました。
――うつになる前となった後ってその見方は大きく変わったのではないですか?
石野:うつになった後は、マンガも読めないでしょう? それが悔しくて泣いたんです。読めなくても困ることはないけれど、マンガも読めない、テレビも見られない自分がいるということが情けなかったんです。できないことが積み重なって落ち込みました。
でも、そこからひとつずつできることを増やしていく。「公園に行けた、良かったね」と。次は「お茶が飲めた、良かったね」。それを繰り返していって、少しずつ自分に自信が出てくる感じでした。
――つい、何でも「できることが当たり前」と思ってしまいますけど、そうではないんですよね。
石野:うつになる人に完璧主義が多いのは、そういう風に思ってしまうからでしょうね。できないと自分を責めちゃう。でも、赤ちゃんのときは歩けなかったし、話すこともできなかったわけだからね。
――あとは、「あの人はできるのになぜ自分はできないんだ」という比較もストレスの大きな要因の一つですよね。今はSNSで個人の情報がたくさん入ってきますが、その中の画像や動画が幸せ自慢やリア充アピールに写るということもあるそうです。
石野:先日、とある著者さんから聞いた話なんですが、Facebookを長くやっている人は幸福度が低いそうなんです。
Facebookって基本的には投稿に「いいね!」をもらうSNSだと思うのですが、自分の投稿ネタが切れているときも、誰かの幸せを写したがどんどん流れてくるわけですよね。すると、「この子はいいな。私は載せるものがない」と考えちゃうんですって。
――つまり、幸せ自慢の場に浸ることは自分を不幸にしてしまうことでもある、と。
石野:SNSは比較の文化ですよね。私は大学でスクールカウンセラーをしているのですが、LINEでグループからはぶられたと男の子がカウンセリングに来るんですよ。今どきの悩みだなと思うけれど、その一方でコミュニケーションがすごく大変になっているとも感じます。人づきあいの仕方なんで誰も教えてくれないし。
――学生たちの心の闇を受け止めているわけですね。
石野:闇はいっぱいありますよ。あと、張り切っている人ほど燃え尽きてしまうよね。それは学生に限らず、社会人もそうだと思います。「頑張ります!」って率先して言う人ほど、燃え尽きちゃう可能性が高い。
――では、燃え尽きてしまわないようにするにはどうすればいいのでしょうか。
石野:こまめな気分転換は大事ですね。何か落ち込んだときに、自分が何をすれば心地よいのか紙に書いてまとめておくといいと思います。なぜなら、落ち込むと好きなものが分からなくなるんですよ。
――無心になれる時間が作れるものを見えるようにしておくと。
石野:そうです。猫と遊ぶとか、歌うとか、踊るでもいいです。抱えているものを忘れられる何かですね。それを見えるようにしておいて、ちょっと疲れたかなと思ったらすぐにやる。
あとは、裸足で土の上を歩くということも結構効果あります。もちろん硝子の破片とか危険物が落ちていないか注意した上でね。人間は動物ですから、土の感触は結構大事なんですよ。土の上はちょっと…というなら、海岸の砂浜でも芝生の上でもいいです。大地のエネルギーを感じることがリセットになるんです。
――『心は1分で軽くなる!』をどのような人に読んでほしいですか?
石野:20代、30代の女性がメインですが、男性ももちろん読んでほしいですね。20代、30代って自分の価値観がまだ定まっていなくて、自分の確固たる判断基準を持っていないことが多いんです。だから悩んでしまうのだけど、誰に聞いても答えを教えてくれない。そんなときに「こういう考え方があるんだ」と参考にしてもらいたいですね。
――最後に読者の皆さまにメッセージをお願いします。
石野:「なんかちょっとうつっぽいな」とか「疲れたな」と思う時に読んでもらって、別の選択肢があるという「気付き」になってほしいです。
悩んでいるときは一つの考え方にこだわっているか、もしくはAかBしかないというような狭い視野になっています。でもそこで第三の選択肢があることで、余裕が生まれるんですね。
例えば「彼氏と別れるかどうか」を悩んでいるとして、今それを決める必要はないわけですよね。だから、「25歳の春までに答えを出す」ということを決めて、それまでに考える時間をつくる。そういう風にもできるわけです。こうしたヒントを書いたつもりなので、ぜひページを開いてみてください。
(新刊JP編集部)
『心は1分で軽くなる!』の著者、石野みどりさん