結婚や就職、転職などの人生の節目は、人生の大きな岐路でもあります。
そこで行う選択を後悔のないものにするために、ぜひやってみていただきたいのが「人生の棚卸」です。
「人生の棚卸」とは自分のこれまでの人生で起きたこと、考えたこと、感じたことを洗いざらい吐き出すこと。それによって自分がどんな時にどんな選択をしてきたかということが整理され、やるべきことがクリアになります。
今回は小説『神の味噌汁』(秀和システム刊)で、様々な人の「人生の棚卸」を描いた、外食コンサルタントの鬼頭誠司さんにインタビュー。「棚卸」の秘訣ややるべきタイミングについてお聞きしました。その後編をお届けします。
――鬼頭さんはコンサルタントになる前は自身で飲食チェーンを経営されていたと聞きました。『神の味噌汁』の作中で「神龍一」が経営しているお店は、当時経営されていたお店と似せていたりするのでしょうか。
鬼頭:それはまったくないです。僕が経営していたのはチェーン店で、300席くらいあるような比較的大きめのお店が多かったんです。一番小さくても15席のラーメン店ですね。
神の店のように「カウンターを挟んで5席だけ」というのはやったことがないんです。ただ、自分が一人でやるとしたらそんな店をやりたいなという思いはありますね。
――いつかはやってみたいと思っているんですか?
鬼頭:いや、絶対やらないです。自分で店を経営するなんて二度とやらない(笑)。
飲食店の経営は二十歳くらいで始めて、もう十分やりましたし、今だってコンサルタントとして飲食店が苦しんでいるところばかり見ているわけですから。やっている人たちがどんな苦労をしているかよくわかっているつもりなので、もう自分でやろうという気は起こらないですね。
――その一方で、脱サラして飲食店をやりたい、というような話はよく耳にしますよね。
鬼頭:僕はそういう人には「やめたほうがいいよ」と言って止めています。飲食を始めたいっていう人は本当にたくさんいて、脱サラしてはじめようという人もいるし、企業が新規事業でやることもあります。どんな場合でも、僕は一貫して止めています。
――どうしてですか?
鬼頭:リスクがあまりに大きすぎます。10人が始めたら、2年以内に半分、5年以内に9人が潰れると言われている世界ですよ。人生を賭けるには危険すぎる。幸い自分が経営していた店はうまくいっていましたが、とても人には勧められません。
飲食店は、飲食店しか愛せない人、飲食店でしか働けない人がやるものです。他のことができる人は手を出すべきじゃない。自分のことを思い出しても、一年で360日は働いていましたし、一日19時間働くなんてザラでした。
心が休まるのなんて大晦日と元旦だけですよ。そんな世界に本当に飛び込みたいですか、と僕は聞きたいです。
――少なくとも私には無理です。しかし、それほど厳しい世界なのに「粉もの屋はもうかるはず」というだけの考えでお好み焼き屋を始めてしまうような人はたくさんいますね。
鬼頭:「粉もの屋が儲かる」っていうのは昔の話ですよ。原価率を低く抑えられるからという理由でそう言われるのですが、だからといって事業として儲かるかというと全然そんなことはないです。
――外食業のプロということでお聞きしたいのですが、旅行などで土地勘のない場所に行った時に、穴場的なお店を見つけるコツのようなものがあったらお聞きしたいです。
鬼頭:店構えを見るといいかもしれません。お店が古くて、長くやっていることがうかがえるけどもきれいにしているようなお店は外れが少ないと思います。店がそこに長くあるというのは地元でずっと愛されているわけですからね。
「古い店」と「汚い店」は違って、古くても掃除が行き届いていればきれいに保てるんです。そこは見たほうがいいと思いますね。
――この本を通して鬼頭さんが伝えたかったことはどんなことですか?
鬼頭:特に伝えたいことがあって書いたわけではないんです。ただ、一つ挙げるなら「自分らしく生きた方がいいよ」ということだと思います。
無理をしたり背伸びをせずに自分らしく生きるって、簡単そうでとても難しいことですが、この本を読んで自分らしい生き方の選択をできるようになっていただけたらうれしいです。
――最後になりますが、読者の方々にメッセージをお願いいたします。
鬼頭:いろいろな背景を持った、さまざまなタイプの人が登場しますから、自分に近い人を探したりして、自分なりの楽しみ方をしていただきたいですね。
個人的にはそろそろ先のことを考え始めた40代以降の「大人」の方が読むと感動できる本なのではないかと思っています。もちろん、自分の人生の棚卸のためにも活用していただきたいです。
(新刊JP編集部)
『神の味噌汁』の著者、鬼頭誠司さん