多くの職場において、新人がまず徹底的に教育されることの一つにマナーがある。
どんな仕事も人間関係の上に成り立っており、その潤滑油となってくれるのがマナーだからだ。
一口にマナーといっても、電話対応、上司への報告の仕方、名刺の渡し方など、その内容は多岐に渡るが、多くの新人が手こずりがちなのが言葉の使い方。特に、謙譲語と尊敬語の使い分けは難しい。
そこで今回は、『入社1年目から差がつく! ビジネスメール即効お役立ち表現』(集英社刊)の著者であり、メール作法に関する書籍を多数著している中川路亜紀さんに、新社会人がつまずきがちなメールマナーについてお話をうかがった。
■つまずく人が多い、謙譲語と尊敬語の使い分け
――本書のタイトルには「入社1年目から差がつく!」というフレーズが入っています。本で紹介されているメールマナーのなかで、新社会人の方に、「まずこれだけは身につけてほしい」と思うものを三つ挙げるとすれば、それは何ですか。
中川路:本書の内容でいえば、お願い編の「アポイントのお願い」、業務連絡編の「社内・社外の調整」、お礼編の「仕事上のお礼」。どんな仕事でも、この三つをまずおさえてほしいですね。
――なるほど。特に、「社内・社外の調整」でいえば、敬語を正しく使えるか使えないかで、周囲が受ける印象はかなり変わってくるでしょうね。
中川路:そうですね、本書でも紹介したように、見積もる側(受注側)がメールを送るとき、「見積書」は「お見積書」とする。社外に対し「社内の誰々が連絡します」と伝えたいときに「弊社の●●から直接、ご連絡申し上げます」といった具合に謙譲語を使う。
「なれなれしくなく、よそよそしくない」メールを送るためにも、このように相手に合わせて敬語表現を正しく使い分けることを心がけていただきたいですね。
――たしかに、その三つはどんな仕事をする場合でも、欠かせないものです。ところで、本書を手に取ってもらいたい読者層というのも、やはり新社会人の方なのでしょうか。
中川路:新入社員の方にかぎらず、20年選手の方にも読んでいただきたいです。交渉ごとや慶弔にかかわるやりとりなど、中堅だからこそきちんとしたメールの書き方が求められ、悩むことがあると思いますので。
――中堅の人でも悩むという意味では、「謙譲語と尊敬語」の使い分けに不安をおぼえる人は少なくないと思います。中川路さんの目から見て、これらの使い分けの習熟度というのは何段階ぐらいに分かれるとお考えですか。
中川路:タメ口しか使えない段階、敬語のボキャブラリー不足の段階、尊敬語・謙譲語を取り違える段階、「身内」概念ができていない段階、敬語カンペキクラスという5段階に分けられると思いますね。
――尊敬語・謙譲語を取り違える段階、「身内」概念ができていない段階の二つについて、さらに詳しく教えていただけますか。
中川路:尊敬語・謙譲語を取り違える段階というのは、「拝見してください」「申されました」といった言い回しをしてしまうケースを想定しています。こうした間違いをする方はけっこう多いですね。
「身内」概念ができていないというのは、社外に対して社内は身内という身内感覚がないため、取引先に対して、上司の行動を尊敬語で話してしまうという段階です。
若い方については、「身内」概念ができていないためにおかしなメールを送ってしまうケースをよく見かけます。どうやら上司に対し、へりくだった表現を使うことに気が引けてしまうようなのですが。
――謙譲語や尊敬語にしても、ちょっとした決まり文句にしても、あらかじめ知っておくのとそうでないのとでは、いざというときの対応に雲泥の差が出ますよね。
中川路:そうですね、何かイレギュラーなことが起きたとき、相手にどんな言葉をかけるべきかについては知っておいて損はないでしょう。
たとえば、いつもやりとりをしている先方の担当者がけがをしてしまった、あるいは、偉い方とやりとりをしていたら、突然、「先日、娘が結婚した」といわれた等、「なんて返せばいいのだろう?」と思ってしまうようなときに、本書で紹介しているようなマナーを身につけていると安心だと思います。
(後編へ続く)
『入社1年目から差がつく! ビジネスメール即効お役立ち表現』の著者、中川路亜紀さん