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関係者全員がハッピーとなっている!? その後の「里山資本主義」

  本が好きで、日頃から書店をチェックしている人ならば、2013年に発刊された『里山資本主義 日本経済は「安心の原理」で動く』(KADOKAWA・角川書店/刊)をご覧になっていることでしょう。
 50万部を超えるベストセラー『デフレの正体』(KADOKAWA・角川書店/刊)の著者である藻谷浩介さんとNHK広島取材班の共著として世に出たこの本は、「新書大賞2014」を受賞するなど大きな話題を呼び、未だに多くの書店の平台で展開されています。
 出版から約2年半、本書で紹介されていた「里山資本主義的なアクション」はどのような進展を見せているのでしょうか。藻谷さんにお話をうかがいました。

――『里山資本主義』の出版から約2年半が経過しました。この間、どのような反応があったのでしょうか。

藻谷:思いがけないことに累計発行部数は40万部を超え、中央公論新社が主催する「新書大賞2014」もいただくなど、大きな反響がありました。そのような流れの一環として、今回オーディオブック化していただくことにもなり、読者の皆さん、関係者の皆さんに感謝しております。
この間に韓国で翻訳出版され、ありがたいことに好評をいただいているそうです。現在は台湾、中国でも翻訳出版が進行しており、海外でも一定の評価をいただいています。

――日本以外のアジア各国で好反応があったのは意外でしたか?

藻谷:いえ、意外ではありませんでした。アジアの国の多くは、日本と同じように恵まれた自然条件を生かし、農業をベースにして多くの人口を養ってきた地域ばかりです。しかし、そうした背景を持つアジアの国々も、今やマネー資本主義と無縁とはいかず、「お金がなければ何もできない」「経済成長が必要だ」という風潮は確実に強まっています。その意味で日本とアジアは重なる部分が多いため、里山資本主義に対して好意的な反応があるのも頷けるのです。

――あらためて、里山資本主義とはどのようなものなのかを説明していただけますか?

藻谷:ものすごく簡単に言えば、「ある地域やコミュニティのなかで経済が循環するようにお金を使う」ことが里山資本主義です。逆に、「お金は貯め込むもの」という考えに支配されているのがマネー資本主義。この本のなかでは両者を明確に区別して話をしています。

――本書では、里山資本主義の実践といえる事例が多く紹介されていますが、それらの事例の「その後」はどうでしょうか。里山資本主義は普及しているのでしょうか?

藻谷:結論から言えば、着実に普及しています。この本では、新たなエネルギー源として「木質バイオマス発電」に注目していますが、この発電方法を普及させるには、木を建築材として積極活用することが欠かせません。というのも、木質バイオマス発電をするためには、燃やすための木くずが大量に必要とされるからです。
さて、木造建築物を増やすためのひとつのソリューションとして、CLT(クロス・ラミネイティッド・ティンバーの略。コンクリート並みの強度を誇る集成材)というものが、より重要になってきています。CLTのメリットは、木を使いながらにして鉄筋コンクリート並みの強度を実現できる点。つまりCLTを使えば、木造の高層建築物をつくることが可能になるのです。
本が出た当時は、CLTの利用はまだ始まったばかりということもあり、「オーストリアに9階建ての木造高層建築物が建ち始めている」といった例を幾つか紹介するにとどまりました。
最新情報によれば、オーストリアのウィーンに24階建ての木造高層建築物ができたそうです。国内でも、3.11の津波で大変なことになった岩手県陸前高田市の隣町、住田町に「土台以外はすべて木」でつくられた役場ができました。住田町はもともと林業の町ということもあり、建材の約7割を地元の杉の木で賄ったそうです。
少し話は逸れますが、つい先日発表された新国立競技場のデザイン案は、二つとも木を使っていますよね。これは決して偶然ではないと思っています。「木を使って建造物をつくる」という動きは、今後ますます活発になっていくのではないでしょうか。

――本のなかで、木についての話は「地域に踏みとどまった人が、地域資源を活用するために始めた取り組み」の例として紹介されていました。その一方で、東京などから過疎地域へと飛び込む若者たち、そして彼らを呼び込む地域の例も多数紹介されていましたが、その後彼らは、各地域はどのような取り組みを見せているのでしょうか?

藻谷:島根県邑南町が田舎暮らしを志す若者の「転職先」として開設した、町観光協会直営のイタリアンレストラン「AJIKURA」は、その後も順調です。もともと黒字の優良経営でしたが、レストランで働く「耕すシェフ」の方々と共に、『里山資本主義』で紹介させていただいたことで、お客さんがより増えました。
興味深いのは、「多忙になる」という、一歩間違えばピンチにもなりかねない事態に対して、実にしなやかな対応をしていることです。
注目すべきは値上げに踏み切った点です。似たような事例で、このような対応を思いつかないところも多いのですが、思い切って値上げに踏み切ったことで、食材を供給している地元の生産者への報酬を増やすことにつながったそうです。
同じく島根県の山あいで、耕作放棄地を使って牛の放牧を始めた洲濱正明さんも紹介させてください。本が出た当時は、まだ事業は赤字だったのですが、今ではすっかり黒字を達成されており、ご結婚もされ、公私ともにめでたいのです。
例を挙げればきりがありませんが、この本で取り上げた関係者はことごとくハッピーになっているんですよね。初めは小さな取り組みでも、アクションを積み重ねることでお金の流れが生まれるようになり、産業が活性化し、人が集まってきて、地域が元気になる。

――最後に読者の方へメッセージをお願いします。

藻谷:繰り返しになりますが、初めはどんなにささやかであっても、里山資本主義的なアクションを起こすことが、世の中が変な方向に走らないためのカウンターパンチになります。まずは身のまわりからで構わないので、お互いに「ここにしかないもの」を交換し合い、「かけがえのない人間関係」を少しずつでも増やすということを始めていただけたらと思います。
最後になりますが、本書にご関心を持っていただいた皆様、本当にありがとうございました。

(新刊JP編集部)

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