バランスシートや損益計算書といった決算書は、数字が苦手なビジネスパーソンにとっては「できれは触れずにおきたいもの」のはず。でも、これが読めることで得られるメリットは計りしれません。
自分の会社の行く末や取引先の経営状態、そして転職先選びや投資先選びなど、ビジネスのあらゆる分野で正確な判断をするために、決算書の数字は必要な情報を与えてくれます。これらを読み解くことができれば、社会人としての人生は確かにいい方向に変わるはずです。
今回は『日本一やさしい「決算書」の読み方』(プレジデント社/刊)の著者で、柴山政行さんにお話をうかがい、会計の素人が決算書から会社の実態を読み取る方法を教えていただきました。
――『日本一やさしい「決算書」の読み方』についてお話をうかがえればと思います。この本では、決算書を「時計回り」に見ていくことで、効率的に理解できるとされています。これはなぜなのでしょうか。
柴山:決算書が苦手な方のほとんどは、決算書の「見方」がわからないんです。つまり、どこから見ればいいかがわからない。注目すべきところに下線を引いてあるわけでもないですしね。だから、ぼんやりと全体を見てしまう。これでは決算書を読めるようにはなりません。
ならば、決算書を見る「手順」をこちらで示してあげたほうが親切じゃないかと思ったんです。それで、この本では決算書の右上、時計でいうと1時の辺りから時計回りで見ていく読み方を提案しています。この読み方は、ビジネスそのものの流れに従うことになるので理解しやすいんです。
たとえば「バランスシート」でいえば、左半分は「財産」で、右半分は「その財産をどうやって調達したか」が示されます。ビジネスを始める時、元手0円では始められませんよね。だから、銀行に借りたりして資金を調達するわけです。これがバランスシートの右上で、まずはここから見ます。そしてその下、バランスシートの右下は自己資金です。右上の数字と見比べることで、その会社が「ヤバい会社」かどうかがわかりますよね。自己資金よりも借り入れで調達したお金が圧倒的に多かったらそれは経営状態が良くないと言えます。借入と自己資金が2:1くらいだとバランスがいい。
――右上と右下を見るだけで経営状態をチェックすることができる。
柴山:そうです。そして次は左側に行きます。
右半分に記したお金、つまり調達した資金や自己資金を使って何をするかというと、投資しますよね。在庫投資をして商品を仕入れたり、設備投資をしたり。こうした投資のことを会計では「運用」といいます。どうやって運用したか、というのがバランスシートの左側です。こちらは下から見ると「設備」「在庫」「未回収の売掛金」「現金」と、項目が「重いもの」からだんだん「軽いもの」になっていきます。
こうやって右上、右下、左下から左上と時計回りで見ていくと、ビジネスを立ち上げて売上が出るまでの流れをそのまま追うことになるので理解しやすいんです。
ここまでの説明に専門知識はまったくありませんし、単純でしょう。私は会計の勉強を子どもにも教えているのですが、こうして教えると理解してくれますし、実際に小学6年生で簿記の2級に合格する子もいます。小学生、中学生に教えるためにいかにわかりやすくするか、という工夫を通じてこの本ができました。だから、大人がわからないわけがないんです。
――確かに、非常にシンプルで理解しやすかったです。
柴山:この本のポイントになっているのは「難しい用語を使わないこと」と「借方・貸方という表現をしないこと」、「仕訳を使わないこと」です。でも、この本の内容が理解できればどんな決算書でも読めますよ。
――「仕訳」は決算書を見るにあたって大事なことではないですか?
柴山:大事かどうかというと、もちろん大事です。ただ、「仕訳」の知識が必要な人というのは基本的には経理担当者であって、その他の人にとっては必要ありません。経理担当者以外の人が決算書から何を知りたいかというと、「会社が儲かっているのか」とか「将来有望な会社なのか」「在庫を持ち過ぎているんじゃないか」「借金が多すぎるのではないか」といったことですよね。そういったことを決算書から読み解くのに「仕訳」の知識は不要なんです。
子どもに教える時も「仕訳」はほぼ教えません。簿記の試験対策をする時に少しやるくらいですね。
ただ、こういうことを言うと“業界”からは嫌な顔をされるんですよ(笑)。仕訳中心の教育法が昔からの常識で、誰もそれが「非効率かも?」と疑ったことがないでしょうから…。
―― 一般的な簿記・会計の勉強とは全然違うやり方なんですね。
柴山:経理部門の実務手順に従って教えるという、今まで行われてきた方法はまじめすぎるんです。全体の数%ほどしかいない「経理関係者」向けの教え方なので、残り90%以上の経理と無関係な人が会計や決算書を複雑で難しいものだと思い込んでしまう。
経理が必要な会計の知識と、一般的なビジネスで必要になる会計の知識は全く別物なんです。
(後編につづく)
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