47都道府県の「ご当地新作落語」を作るプロジェクトを展開するなど、地方にフォーカスした活動を精力的に行っている作家の藤井青銅さんが執筆したショートストーリー集『あなたに似た街』(小学館/刊)は、実在する自治体への取材を元に、地方で生きる人々の日常を中心に描いた20篇のショートストーリーが収められている。
シャッター商店街、Uターン、街おこし……どの地方にも重なる題材ながらも、その物語の背景に広がる街並みや名所は、そこに住んでいる人や行ったことがある人でないと分からないようになっている。
実はこの『あなたに似た街』のモチーフになっているのが佐賀県だ。
11月8日に渋谷ヒカリエで行われた本書の出版記念イベント『佐賀×旅物語♪食物語♪風物語♪』は佐賀県が主催となり、佐賀県の名産品が無料で振る舞われるなど、まさに佐賀尽くしの催しとなった。
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オープニングを飾るのは、篠笛奏者として活躍中の佐藤和哉さん(唐津市出身)のミニコンサートだ。佐藤さんの故郷である唐津の祭囃子や、サガテレビで放送された「まつりびと-さが祭時記-」のテーマソングである「蒼風」など、佐賀にちなんだ曲を中心に演奏。「歴史があり文化が深く、食も美味しいものばかり。そして、唐津の海も美しい場所。ぜひ足を運んでほしい」と佐賀の魅力をPRした。
続いてのトークイベントの部では、藤井青銅さん、フジテレビ「世界の中心で愛を叫ぶ」やNHK朝の連続テレビ小説「ごちそうさん』を手掛けた森下佳子さん、旅行ジャーナリストで「旅育」を提唱する村田和子さんが登壇し、佐賀トークに花を咲かせた。
佐賀県といえば「地味な県」「(福岡から長崎に行くときに)通り過ぎる場所」というイメージが強いかもしれない。フレッシャーズの調査では、「一生行くことはなさそうな都道府県ランキング」でトップになるなど(*1)、どうも印象が薄い。
しかし、南は有明海、北は玄界灘に接する海の幸の宝庫であり、有田焼や伊万里焼、唐津焼など陶磁器の産地としても有名だ。さらに、最近では「軍師官兵衛」ブームで注目が集まっているという。
そんな佐賀はとにかくプロモーション動画制作に力を入れているようで、やたらとクオリティの高いムービーはネットでもたびたび話題になっている。
例えば、日本では有明海のみに生息するワラスボを主人公にした佐賀市制作のムービーはYouTubeで23万回以上の再生を記録。さらに『佐賀県温泉「いっしょに入ろ?」篇』はなんとYouTubeで189万回再生を超えるほどだ。
もちろんイベント内でも上映され、観客はくぎ付けに。次々に繰り出されるムービーに藤井さんは「佐賀はこういう動画を作りたがる県なんですね」とコメントしていた。
日本三大美肌の湯として名高い嬉野温泉や、有田焼の陶器が至るところで見られる陶山神社など、佐賀には名所がたくさんある。
旅ジャーナリストの村田さんのお薦めの場所は、干潟よか公園と吉野ヶ里遺跡。特に吉野ヶ里遺跡については「勾玉作りや火起こしなど、子どもが想像力を身につけられる場所だと思います」と母親の立場からお薦めの理由を挙げ、「佐賀県は旅育という観点からも良い場所だと思います」と語った。
佐賀県はどんな場所かと聞かれた森下さんは「派手なイメージではないけど、訪れた人がその魅力を自分で探せる場所だと思います」と返答。また、藤井さんは上梓した新刊『あなたに似た街』について、「僕も地方出身ですが、お父さん、お母さんが地方出身で自分は東京育ちという人もいるでしょうし、それぞれ何かしらの形で地方との関係があるはず。この短編集は佐賀をモチーフにしているけれど、自分と関係のある地方の話として読んでいただければ、どこかに琴線に触れる物語があると思います」と語り、書籍をアピールしていた。
終演後は藤井さんによるサイン会が開催され、盛況の内に終わった出版記念イベント。入場者にはコインが配られ、それを使って地場のスイーツがもらえる「シュガーロードがちゃ」なるものも登場するなど、出版の枠を超えて、広く佐賀県の魅力を伝える会になっていたのが印象的だ。
『あなたに似た街』には佐賀を下地にしながら、地方にある普遍的な風景が広がっている。地方出身者は懐かしく思い、東京から出たことがない人は新鮮に映るだろう。
(レポート:金井元貴/新刊JP編集部)
*1…一生行くことはなさそうな都道府県ランキング! まさかの3位に......◯◯県がランクイン!(フレッシャーズ)
https://gakumado.mynavi.jp/freshers/articles/13130 (2015年11月10日確認)
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