あなたは経済についてどのくらい熟知していますか?
自分がどれだけ知識があるか、腕試しにもってこいなのが『戦略思考トレーニング 経済クイズ王』(日本経済新聞社/刊)です。本書は、「パネルクイズアタック25」などの出演歴を持つクイズマニアであり、ボストンコンサルティンググループ出身のコンサルタント・鈴木貴博さんが2015年の日本経済新聞の記事から50問のクイズを出題。それを解いていくことで経済の知識を身につけられるようになっています。
でも、コンサルタントとクイズ、にわかにはイメージが結び付きませんよね。今回は鈴木さんにお話をうかがい、クイズについて、そして2015年の経済について語っていただきました。インタビュー、後編をお届けします。
(新刊JP編集部)
■これだけは知っておきたい! 新聞の情報を効果的に取り入れる方法
――この本に掲載されているクイズは日本経済新聞の記事から出題されています。日経新聞の良いところはどこにあると思いますか?
鈴木:経済という切り口に関しては日本有数の取材力を持っている新聞です。そのため、経済の情報や密度は、少なくとも日本で手に入る媒体の中では最も豊富ですね。
――鈴木さんはどのような日経新聞の読み方をしているのですか?
鈴木:注目しているポイントが3つあります。1つ目は異常値。2つ目は変化。3つ目は理由です。
1つ目の「異常値」は普通に考えたら出て来ないような数字ですね。「業績が大幅に向上」「年収が1年で3割増えた」といった情報に注目します。2つ目の「変化」は、例えば「タバコを吸っている男性が成人人口の30%を切りました」というような情報です。何がどう変化したのかということを示す情報です。そして3つ目の「理由」は、なぜ起きたのかという理由です。
この3つが全て込められた記事はあまりなくて、もしそのような記事を見かけたら鴨が葱を背負ってくるという感じです。でも、そのうちの1つでも情報があればそれだけで勉強になるんですよ。そして、別の記事からその理由や背景を見つけて、情報をつなげるわけですね。
――普段は一つの記事に対してさらっと目を通すような感じで読むのですか?
鈴木:私の場合は、見出しと最初の数行を読んでおもしろいと思ったら読み、だいたい内容が分かったところでとめます。ただ、新聞記事の本当に面白い部分は見出しや最初のパラグラフだけではなくて、記事の後半に書かれていたりするんですね。だから、重要だと思った記事は最後まで読んだ方が良いです。冒頭には書かれていないディテールに異常値であったり、変化であったり、理由が書かれていることが多いのです。
――新聞記事をスクラップにして保存している人もいますが、鈴木さんはどのように新聞記事を保存しているのでしょうか。
鈴木:私はスクラップにはしていません。ある政治家が新聞の読み方について語っていて私と同じだなと思ったのですが、まず面白い記事があると、それをはさみで切る。それで読んで、捨てるんだそうです。つまり、スクラップにしようとしてはさみで切っている時間が、彼にとっては読んでいる時間にあたる、と。
――それは独特な読み方ですが、鈴木さんも同じような読み方をされているのですか?
鈴木:私の場合は記事をPDF化するんです。日経新聞電子版には印刷できるという機能があるのですが、印刷すると紙がたまるでしょう。だからPDF化してフォルダに入れる。ただそのあとはほとんど見ないです。だいたい(書かれていることが)記憶で残っているので。
――なぜPDF化するのですか?
鈴木:それは内容を理解するための儀式なんです。その儀式があるから覚えられる側面もありますね。情報はストックするのではなく、フローの中で覚えるものだと考えています。だから、情報に触れるフローをつくる習慣を確立することが大切になるのではないでしょうか。
――得られた情報は体系的に理解しなければ文脈で語ることはできないと思いますが、そのために必要なことを教えていただけますか?
鈴木:頭の中でフラグを立てておくことですね。TPPが合意したという記事があるとしましょう。TPPは基本的には秘密交渉なんです。だから識者の中には、「まだ公開されていない日本にとって都合の悪い情報があるかもしれない」と書く人もいるわけです。それは本当かどうか分からない言説なので、フラグを立てて、TPPについての記事に関する何かしらの新たな情報が出てきてもキャッチできるように気を付けるようにする。そういうチェックポイントを作っておくと、情報が集まりやすくなります。
――最後に、本書のクイズに挑戦する上でのポイントを教えていただけますか?
鈴木:このクイズを解いていくことで、2015年が振り返られるようになっています。そこには3つのポイントがありまして、まず、実はこの2015年は、グローバルな視点でいえばここ数年絶好調だった経済に暗雲が立ち込めた年だったということです。今年の前半くらいまでは好景気が続いていたのですが、ちょうど転換点にきている状況です。
2つ目は、その一方で、日本はあまり景気が良い感じがしませんでしたが、今後どのように成長していくのかということについて、いくつかの方向付けができた年でした。3つ目は、それとは別に10年ほどのスパンで未来を見たときに、イノベーションの芽が見えるようになった年だったのではないかと思います。
この3つのポイントを頭に入れながら、50問のクイズを通してもう一度情報をつなぎなおすと、現在や未来を見るときの立ち位置が分かるようになります。その部分を意識して読んでいただくと、この本が単なるクイズ本ではないことが分かると思います。楽しみながら解いていってほしいですね。
(了)
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