昨年、日本で久しぶりに国内感染が確認され、流行の兆しを見せたことで大きな話題となった「デング熱」。そろそろこの病気を媒介する蚊が出る時期になったこともあり、今年も発生するのではないかと懸念している人は多いのではないか。
昨年のデング熱の場合、日本に入ってきた経路については「東南アジアなどマラリアの発生地から日本に着いた荷物にデングウイルスを持ったネッタイシマカが紛れ込んでいた」「マラリアの発生地から日本に来た外国人がデングウイルスに感染していて、その血を吸った蚊によって日本で広まった」など諸説あるが、いずれにしても今年も来年も起こりうることであり、蚊を媒介とする以上、他の病気でも起こりうることだ。たとえばマラリアのような……。
現役医師、岩橋秀喜さんは著書『マラリア日本上陸』(幻冬舎ルネッサンス/刊)で、フィクションの形式をとって、国内でマラリアが発生・流行する危険性を指摘している。
■輸入作物に混じって病原体が日本に入ってくる!?
今でこそ日本では撲滅されているマラリアだが、かつては各地で流行した歴史がある。沖縄も例外ではなく戦時中や戦後間もない時期は多くの感染者を出した。
その沖縄のある病院に訪れた子どもが熱帯熱マラリアと診断されるところから物語が始まる。当然、マスコミはこぞって報道し、大騒ぎになるなか、短期間で感染者はどんどん増えてパンデミックが起こる。
このマラリアは沖縄で発生したものなのか? それとも外国から持ち込まれたものなのか? もしそうならどのように持ち込まれたのか?
疫学調査を依頼された大学講師・蔵田直子は、これらを解明すべく流行の中心地となっている那覇に飛ぶが、現地の状況はその患者数増加のペースから、すでに1400匹ほどのマラリアの病原体を持ったハマダラカ(マラリアを媒介する蚊)が那覇を飛び回っている可能性があるという衝撃的なものだった。
米軍基地に象徴されるように、沖縄は外国との接点が多い土地柄だ。
そんな中、那覇に工場を持つある企業が、バイオ燃料の原料としてフィリピンからサトウキビを輸入していることに着目した直子は、そのサトウキビのコンテナにマラリアの「運び手」となるハマダラカが紛れ込み、日本に入ったのではないかという仮説を立てる。その後、那覇市の蚊の分布を調査し、掃討したことで那覇のマラリア騒動は一旦は沈下したのだが、その直後にフィリピンで不可解な出来事が起こる。
同国のセブ島で暮らす日本人移住者たちが、こぞって日本に帰国しはじめたのだ。そしてその理由は「マラリア」。
那覇とセブ島、短期間のうちに二つの場所で起こったマラリア騒動にどんなつながりがあるのか?物語は急展開を見せる。
このストーリーはフィクションだが、本書では気候や環境などあらゆる面で、日本はいつマラリアが流行しても不思議ではなくなっていることが示される。疫学や生物学など、医師である著者ならではの豊富な知識に裏付けられた物語には説得力がある。
なかでも、日本でのマラリア感染のカギになっているのが「産業構造」と「経済」そして「テクノロジー」だ。これらがマラリアとどのように関わってくるのか。ぜひ本書を読んで確かめてみてほしい。
(新刊JP編集部)
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