「新刊ラジオ」というPodcast番組でブックナビゲーターとして1750冊以上の本を紹介してきたブックナビゲーターの矢島雅弘さん。ビジネス書を中心に文芸やサブカルチャー、生活実用書までさまざまな本を読み、番組での紹介という形でアウトプットをしてきた。
そんな矢島さんの読書術がついに一冊の本になった。
その名も『エモーショナル・リーディングのすすめ』(ディスカヴァー・トゥエンティワン/刊)。たくさんのインタビューもこなすブックナビゲーターらしく、本を通して「著者との対話」を楽しもうと訴える一冊だ。
今回は本書について、そして矢島さんの読書遍歴についてお話を聞いた。前編では、矢島さんが読んできた本やエモーショナル・リーディングのポイントを聞いた。
(新刊JP編集部)
■ビジネス書は「著者と対話」をすれば飽きない!
――普段、新刊JPでは「新刊ラジオ」というPodcast番組のパーソナリティをされている矢島さんですが、なんとこれまで番組内で1750冊以上の本を紹介しています。「新刊ラジオ」が始まる前はどんな本を読まれていたのですか?
矢島:大学で社会学を勉強していたこともあったので、現代社会を論じた本はよく読んでいましたね。印象に残っているものだと、ちくま文庫さんから出ている森岡正博さんの『意識通信』や、中公新書さんの『論争・中流崩壊』(「中央公論」編集部/編)とか。
――これらの本が出た頃、メディア論や社会階層論がブームみたいな感じでしたよね。
矢島:そうなんですよ。ほかには、東浩紀さんの『動物化するポストモダン』(講談社/刊)もかなり感銘を受けましたし、香山リカさんの『ぷちナショナリズム症候群』も興味深く読ませて頂きました。中公新書さんですね。今回は新書を中心に挙げましたが、いわゆる学術書も読んでいました。
――そういったジャンル以外の本ではいかがですか?
矢島:学生の時、すごく精神的に疲れていた時があったんです。自分は本当にダメな人間だなと思っていた……そんな時期に出会ったのが、宮崎学さんの『突破論』(光文社/刊)でした。「スポーツニッポン」で連載されていた人生相談をまとめた一冊なのですが、宮崎さんは異色の経歴の持ち主で、とてもアウトローな視点から、人生の見つめ直し方や変え方を教えてくれるんです。僕の中ではカルチャーショックでしたね。そんな人生の変え方があるのか、という回答がどんどん出てくるんです。
――それは面白そうですね。今はビジネス書をメインに読まれていらっしゃいますが、ビジネス書はもともと読んでいなかったとか。
矢島:実はこの新刊ラジオを始める前までは、あまり読んでいませんでした。当時僕は新刊JPを運営しているオトバンクの社員だったのですが、「矢島、こういう番組を作りたいから、これらの本を読んでおいてくれ」と上層部から言われて読み始めたのがきっかけです。その中で、ビジネス書が面白いということに気づかせてくれた本があって、それが『最強トヨタの7つの習慣』(若松義人/著、大和書房/刊)です。新しい知識に触れたときの“驚き”がありました。今でこそ当たり前のようにビジネス書に出てくる「かんばん方式」や「カイゼン」という言葉は、この本で初めて触れました。
――新刊ラジオ黎明期の紹介本を見ていると、時代を感じますね。当時売れていた本がズラリと並んでいて。
矢島:勝間和代さんの『年収10倍アップ勉強法』(ディスカヴァー・トゥエンティワン/刊)は印象的でした。本って一章が何ページにもわたって書かれているイメージだったのですが、この本は一つ一つの項目が短く分かりやすくまとめられていて当時の僕には新鮮でした。さらに、この本は「勉強法」がテーマなんですね。それって、いわゆるビジネスパーソンの基礎をなすものだと思うんです。僕自身もこの本に載っている勉強法は参考にしましたね。
――そこでビジネスパーソンとしての基礎を学んだ、と。
矢島:そういうことですね。また、そのとき、同時並行で読んでいたのがピーター・F・ドラッカー『経営論』(ダイヤモンド社/刊)でした。800ページ近くある分厚い本なのですが、オーディオブック版のディレクターとして全文目を通したんです。この本の中でドラッカーは“人間”に着目していて、それまで読んできた社会学関連の本やビジネス書がすべてリンクしてくるんですよ。あ、全てはつながっているんだな、と読書家として目の前が開けたような気持ちになりました。
――そういった本を通して読書をするための土台ができた。新刊ラジオだけでもすでに1800冊は本を読んできたわけで、読書に飽きることはないんですか?
矢島:よく聞かれるのですが…飽きないですね。僕自身は飽きないです。ただ、新刊ラジオを続けてきた中で、スタッフの方が本に飽きてしまったことがあったんです。「同じような内容の本が多いですね」と。でも僕はそう思わなくて、例え結論が似ていても、著者が違うのだからそこに至る過程や背景は違うはずなんです。実は人に本を紹介するときはこの過程や背景がすごく重要で、過程・背景が違えば似たような結論であったとしても、それぞれの本に込められたメッセージは全く違うものになるんです。
『エモーショナル・リーディングのすすめ』では、それを「対話」といっているのですが、僕は無意識でやってきた。それはなぜかというと、著者さんと実際にお会いして話す機会が多いからだと思うんですね。まずは本で著者さんと対話をして、そしてお会いしたときにその対話で得られた自分なりのメッセージをぶつける、すると著者さんも喜んでくれるんです。でも、本だけでも充分に対話できると思いますね。
――矢島さんの初の書籍は『エモーショナル・リーディングのすすめ』というタイトルですが、新刊ラジオのスタッフに聞いたところ、この「エモーショナル・リーディング」という読書術はもう5年くらい前から使っていたそうですね。
矢島:そうなんですよ。だから、新刊ラジオの関係者からは「矢島さん、本を出すの遅いですよ!」って言われるのですが(笑)僕の中では当たり前の読書術だったので、書籍化することに対して踏ん切りがつかなかったんですね。
――読書術というと「速読」などテクニカルな本はよく見かけますが、こういった内容の本はあまり見かけません。
矢島:そうなんですよね。実は僕が最初に出版元のディスカヴァー・トゥエンティワンさんに企画書を提出したときに、“読書啓発”というジャンルを作りたいと言ったんですね。テクニカルな本ではなく、どちらかというと自己啓発よりの内容にしたいという想いがありました。だから、結果的にそういった内容で書けて嬉しく思います。
(後編へ続く)
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