スマホ一台で飲食店のサービスは変わる――そう断言するのは、アスカティースリー株式会社代表取締役の小林俊雄さんだ。ダイエーに入社後、新人で売上1位を記録、新規事業を担当した際にはローソンの「Loppi」の開発に携わり、チケット販売に革命をもたらした。
そんな小林さんが現在普及に取り組んでいるのが、タッチパネル式オーダーシステムだ。飲食店で見かけたことがある人も多いのではないか。
小林さんの著書『「超一流のおもてなし」は、スマホ一つでできる。』(自由国民社/刊)は“ブラック”色が強いといわれる飲食業界を変えるための方法や、「おもてなし」の意味などを説明した一冊だ。
新刊JPは小林さんにお話をうかがうことができた。今回は後編をお伝えする。
(新刊JP編集部)
■飲食業界のブラック化は「IT」が食い止める!
――小林さんは現在、飲食業界を中心に、タッチパネル式オーダーの普及に努めていらっしゃいます。私も使用したことがあってとても便利だと思いました。この発想はどこから出てきたのですか?
小林:まさにニーズがあったからということが大きなポイントですね。サービスを充実するために、いわばコンシェルジュ的な要素は必要不可欠で、お客様にあった情報を提供できれば一番良いのですが、そういった人材を育成するというのはとてもコストのかかることなんですね。また、お客様も個人の好みは変わるものですし、「こんなサービスもありますよ」と押し付けられると嫌になってしまう人も多いと思います。
それを解決できるのがITだと考えました。さらに、ちょうどその頃、外食産業に個室ブームが到来して、お客さんにあまり過剰に接しないお店が人気を集めるという現象が起きたんです。これはチャンスではないかと思ってお客さんにインタビューをしてみると、「あまり店員さんから『注文いかがですか?』と聞かれるのは好きではない」という声が若い女性層から上がったんですね。
一方で、飲食というくつろぎの空間にコンピューターが入ってくるのは考えられないという声も上がりました。ただ、エンドユーザーからはそういったシステムが欲しい、と。「これはロッピーのときと同じだな」と思いました。
――昔の経験と重なったのですね。
小林:そうなんです。他にも、システム開発面などで大きな壁があったのですが、それらを乗り越えて実現への目処が立ちました。最初の一年半くらいはシナリオ通りに進んでいた感覚ですが、商品が実装されて、マスコミが注目してからは早かったですね。この部分の話はとても面白いので、いつか本にまとめることができればと思っています(笑)
――飲食業界というと、やはりブラックであるという風潮が強いと思いますが、その点、小林さんはどのように思っていますか?
小林:生産性がなかなか上がらないことが、ブラック化してしまう一番の原因だと思いますね。基本的に長時間労働ですし、休日にも働かないといけない。でも、利益は大きく残らないのでその分所得も低くなる。だから、いかに生産性を上げるかというところがカギであり、ITを活用することが重要になるのです。
――ブラックの風潮が強い企業の多くは精神論で乗り越えていく感覚がありますね。
小林:そうなんですよね。精神論や仕組みの部分で生産性が悪いのを補っていく。ただ、そうすることで現場が疲弊をしてきて、良いサービスをする余裕がなくなってきます。生産性を上げるための工夫もできなくなる。するとお客さんからのクレームにもつながる。
――人間対人間のサービスにITを介入させるのは難しいという先入観があるのでしょうか。
小林:ただ、それを続けていくと、結果的にブラック化してしまう。従業員側に余裕がないと、お客様が何を要求しているかも把握できなくなるわけですから。従業員も人間です。ただ、現在でもやはり「接客」の部分にITシステムを入れるということに対してあまり良い顔をされないことはありますね。
私はそうした先入観を払しょくするために、セミナーを開いたり、今回のように書籍を出したりしています。生産性も上がるし、従業員の満足度も上がる、お客様の満足度も上がる。そしてリピーターが増えて、回転率が上がる…。こういうシナリオを見ることができるわけです。
もちろん、ITを導入して従業員を削減するというような考え方では上手くいきません。お客様とともに働く人にもメリットを渡せないと、経営は上向かないですよ。
――本書は「おもてなし」が大きなキーワードになっていますね。
小林:「おもてなし」は日本人の心ですから。海外から見ると、日本の「おもてなし」は驚くほど洗練されていると見えるようです。ただ、「おもてなし」は精神的に余裕がないと難しい。余裕がないとお客様が何を望んでいるのかも見えなくなってしまいます。
――他にIT導入の利点を教えていただけますか?
小林:IT化の役割の一つにデータを蓄積できるという点があるんですね。データを使って接客を改善するのにも役に立ちますし、そのお客様に合ったサービスを提供できるようになりますよ。
――本書をどのような方に読んでほしいとお考えですか?
小林:飲食に携わっている方々の中でも、経営者や店長クラスの方々ですね。「アルバイトが3日で超一流のおもてなしを身に付けられるなんて嘘でしょ?」と思う人もいるかもしれませんが(笑)読んでもらえると、その意味が分かると思います
――では最後に、このインタビューの読者の皆様にメッセージをお願いします。
小林:ここ1年間で一気にスマホやタブレットが活用されるようになりましたが、今後さらに進化していきます。その進化に伴って、お店の売上にも貢献できる武器になっていくと思うのですね。
ITを導入し、サービスの質を上げることがお客様の満足度を上げるために最も重要なことです。そういったことにまだ気づかれていない経営者もたくさんいるように思います。この本をきっかけにして、みんながハッピーになるビジネスを展開し、経営基盤をより強化して、働く方々が幸福になって頂けると大変嬉しいですね。
(了)
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