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中村修二「研究者の魂を捨てた」―偉業までの険しい道のりとは

 12月10日(日本時間11日未明)、2014年のノーベル賞授賞式がスウェーデン・ストックホルムで行われ、天野浩氏、赤崎勇氏、中村修二氏という3人の日本人にノーベル物理学賞が授与された(ただし、中村氏はアメリカ国籍)。受賞が決まった際に、中村氏のコメントが物議を醸し出す一面があり、授賞式でどのような言葉を発するが注目が集まった。壇上で中村氏は「私たちが1980年代に青色LEDの仕事をはじめたとき、それは不可能なことであると、何度も何度も言われた」と新しい技術を開発するまでに辿った苦難の道のりを話した上で、家族と日亜化学工業、カリフォルニア大学の全ての同僚たちに感謝をしたいと述べ、拍手喝采を浴びた。

 「中村修二」という人物の人生を辿ると、とてもドラマチックな物語が浮かび上がる。
 大学院を修了した彼は日亜化学工業に就職したものの、順風満帆に研究者としての道を歩んでいったわけではない。『中村修二劇場』(日経BP社/刊)に掲載されている中村氏の手記(2004年6月『日経ビズテック』No.001)によれば、入社からの10年間は研究以外の、ビジネスの現場を知るための一連の仕事も持たなければならなかったことを明かしている。研究から品質管理、客席での製品説明や接待のような仕事まで行ったそうだ。

 中村氏は、入社後のほぼ半年の間に、研究者としての魂を2つ捨てたと述べる。
 それは、「本」と「学問」だ。
 入社直後手がけることになったのは「リン化ガリウム」(GaP)の開発だった。学生時代から理論が好きだったという中村氏は、教科書や特許を読んで、基礎からリン化ガリウムの製造技術を理解しようとする。しかし、半年後、「どんなに本や資料を読んでもリン化ガリウムはできない」(p48より引用)と気付いたという。

 その理由は、リン化ガリウムの開発過程にあった。どうしても石英管の溶接作業をしなければいけない。開発人員が少なく、そして会社は製品としてのアウトプットを求める。
 中村氏は数多くの失意と、少しばかりの成功を経験したとつづっている。そして、これらが後の偉業の土台となる。

 紆余曲折を経て中村氏は青色LEDの開発に着手する。本書ではその時のエピソードが数多く明かされているのだが、その中でこんな印象的な言葉をつづっている。

私がもし実験室にこもって研究に没頭できる恵まれた境遇にあったら、青色LEDの開発に成功することはなかっただろうということだ。本と学問を捨てたことによる失意、営業先や社内の厳しい意見にさらされた経験の蓄積が、私を青色LEDの開発に向かわせたのだ。(p57より引用)

 さて、『中村修二劇場』では貴重な資料も公開されている。1990年8月から9月に書かれた中村氏の「実験ノート」の一部である。
 このとき、中村氏は「窒化ガリウム膜」とよばれる青色LEDの発光材料をつくるための実験をしていた。青色発光を実現できる材料はいくつがあるが、実はこの窒化ガリウムは人気のない材料だった。それを中村氏は「ほかの人がやっていない」という理由で選び、研究を進めていた。
 ほかの人がやっていないということは、つまりはとてもつくりにくい材料だということ。「実験ノート」ではガスの導入方法をいくつも変えるなど苦戦する姿が見える。そして、光明が見えてくる様子も…。

 本書は20年前から中村氏を追いかけてきた日経BP社の集大成となっており、ノーベル賞受賞決定の直後に収録されたインタビューなども掲載されている。
 中村氏たちが発明・開発した青色発光ダイオードを元にした白色LEDは、世の中に大きなインパクトを与えた。寿命が長く、明るくて、なおかつ省エネという夢のような照明が生まれ、至るところで使われている。
 今一度、中村氏の偉業に拍手を贈りたい。
(新刊JP編集部)

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