あなたは、人と人は分かり合い、肯定しあえると思うでしょうか? 他人を許し、その存在を受け入れることはできるでしょうか?
筆者はこの問いにぶつかったときに、「できない」という結論に至りました。自分にはエゴがあり、相手にもエゴがある。エゴ同士がぶつかれば、そこに衝突が起きる。「自分だけのことを考えて」も「相手のことだけを考えて」も、歪みは起こります。この質問を他の人にぶつけてみても、「他人は何を考えているか分からないから、できない」(30代男性)、「その人によるかもしれないけれど、許せない人もいる」(20代女性)といった意見が返ってきました。
『杉の木の両親と松の木の子ども』(弦本將裕/原作、つがねちかこ/絵、福田房仙/書、株式会社しちだ・教育研究所/刊)は、筆者がこの問いを考えるきっかけになった絵本です。
杉の木の夫婦の間に生まれた、松の木の子ども。真っ直ぐに伸びていく杉の木に対して、松の木は横に枝を伸ばします。
「うちの子って何か変だと思わない?」
「このままじゃ、この子のためにならない」
そして、杉の木の両親は、寝ている松の木の子どもの枝を切ります。
「なんでこんなことをするの?」
「これはお前のためなんだよ」
枝を切られた松の木の子どもは、「成長の芽」や「可能性の芽」も刈り取られ、個性を否定されてふさぎこんでしまいます。しかし、成長していっても松の木は松の木。杉の木ではありません。
お父さんとお母さんは、松の木の子どもを病院に連れて行きます。最初にかかった松の木の医者は「この子は素直でとてもいい子。このまま、のびのびと育ててあげてください」とアドバイスしますが、杉の木の両親は「この医者はヤブ医者だわ!」と言って病院を転々とします。
そして、物語は衝撃的な結末へと向かっていくのです。
このストーリーを作った弦本將裕さんは、「個性」をテーマに心理学を実践し、『動物キャラナビ』といった動物占いの本も執筆されています。
弦本さんはこの絵本を通して、現代の親子関係の問題点を洗い出そうとしています。自分たちの価値観を子どもに押しつけてしまう親たち、その価値観を必死に受け入れようとしても、どうしても受け入れられずに、自分の中にひきこもってしまう子どもたち。
「子育て中のお母さん方の話を聞くと、我が子でありながら理解できないとか、特定の子をえこひいきしてしまうという方が多くて、親子の関係がとても難しくなっているのを強く感じました。人間は、自分と異なる個性を受け入れるのは容易ではありません。それは価値観が違うから。そこで、杉の木と松の木という全く異なる性質を持つ木に置き換えることで、個性の違いを訴えたかったのです」
弦本さんはこの物語をつくった理由についてそう答えます。親子といえども、一心同体ではありません。別の存在であり、個性も価値観も異なります。でも、親子関係においては、親が強く、子は弱い存在。子は親の言うことに従わなければ生きてはいけません。
『杉の木の両親と松の木の子ども』はとても分かりやすいストーリーです。だからこそ、自分事として物語のテーマの重大さを受け止めることができるはずです。
弦本さんは次のように警鐘を鳴らします。
「自分と異なるモノ…風貌だったり考え方だったりいろいろですが、それを受け入れるのは容易ではありません。個性を考える時に、『みんな自分と同じように考えるはずだ』という間違った固定観念が『否定』を生むのです。自分と他人は違うのだという前提に立たないと、コミュニケーションは成立しません」
どんな関係であれ「他者」は自分とは違う。それは、どの場面でも念頭に置かなければいけないことですが、こと子育てにおいては大事なことなのではないでしょうか。
(新刊JP編集部)
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